学校であった怖い話
>三話目(福沢玲子)
>I3

ふうん、でも花は好きなんでしょ?
桜が嫌いなんて、花好きな私としては許せないわ。
ちょっと、邪道ね。
私はね、花の中では桜の花がとても好きなのよ。

私の母の実家は、桜の有名な所なのね。
4月中旬になると、土手に何キロにも渡って桜並木がいっせいに花を咲かせるの。

その桜の散り際の、きれいなことといったら表現しようがないくらいよ。
桜の花吹雪の中を歩くと、宙を飛んでるみたいに気持ちが高揚してくるの。

その中にいると、自分の体は桜の花びらでできていて、この桜吹雪と一緒に風に吹かれて消えてしまうんだって、小さい頃は本気でそう思っていたこともあったわ。
私の好きなのは、花だけじゃないのよ。
私の部屋は、観葉植物でいっぱいなの。
ジャングルみたいにね。

植物って、やっぱり生きているからかしら。
毎日、気にかけて話しかけて可愛がってやるとね、必ず私にその気持ちを返してくれるの。
綺麗な花を咲かせたり、私のストレスを和らげてくれたり、すっごく元気に育ってくれるの。

あとね、私の感情を敏感に感じ取って反応してくるのよ。
私が、病気だったり、悩んでいたりすると、とたんに花たちがしおれたり、元気がなくなったりするんだ。
可愛いじゃない?
いじらしいじゃないの。
はっきりいうけど、植物は感情を持っていると思うよ。

人はそれを、精霊が宿っているともいうけどね。
樹齢何百年も、何千年も生きている木なんか怒らすと怖いっていうわよね。
だから、さっきの私の質問に対しての返事も、しっかり精霊に聞かれているんだからね。

これから、あんまり変なこというと後でどうなってもしらないわよ。
そっかぁ、坂上君て桜が嫌いなのかぁ。
うふふふっ。
あ、怒っちゃダメよ。
ごめんごめん……。

花や木にはね、精霊が宿るんだよ。
特に、樹齢何百年とか何千年っていう木はね。
いろんな歴史を見てるでしょ?
人の生き様とか町並みの移り変わり、とにかくいろんなものを見てるのよ。
人間なんかより、ずっと偉いんだから。

私のこと、馬鹿にしてる?
おかしいとか思ってるでしょ。
花ってね、人間の言葉をわかるんだよ。
言葉だけじゃないよ。
感情までわかっちゃうんだよ。

サボテンを使った実験で、証明されてるんだからね。
サボテンはね、人間の言葉によって成長が早くなったり遅くなったり、より美しい花を咲かしたりするの。
私も、サボちゃん飼ってるよ。
太郎ちゃんと花子ちゃんていう二人のサボテンちゃん。

毎日、話しかけてあげるの。
そうすることが大事なんだからね。
優しく話しかけて、大事に育ててあげると、それだけ立派なサボちゃんになるの。
だからね、逆も言えるんだよ。
なじったり、嫌な光景を見せたり、粗末に扱ったり、乱暴したりすると……植物だって怒るんだよ。

特に、さっきも話した何百年も何千年も生きてきた木なんかは、怒らすと怖いのよ。
精霊が宿っているからね。

それで、坂上君も見たことあるよね?
旧校舎の裏にある一本の大きな桜の木。
なぜか忘れ去られたように、寂しくぽつんとある一本の木。
あの桜って、樹齢千年を越えてるんだって。
だから、あんなに大きいのね。

それで実をいうとね、新校舎の裏にある第二運動場は、あそこにできるはずだったんだって。
けどね、あの桜の木があるから、だめだったのよ。
どうしてかわかる?
あの桜をね、切ったり掘り出そうとすると、事故が起きるんだって。
工事中に三人も死んだらしいよ。

木を切り倒そうとした一人は、鉄骨に押し潰されて圧死。
掘り出そうとした二人は、それぞれ原因不明の発熱で一週間苦しみながら生死の境をさ迷った末に死亡。
誰も、手を出すことができないんだよ。

他の場所に移すのも、だめなんだってさ。
お祓いをやろうが、何をしようが全然だめなんだって。
怖いでしょ。
1.怖い
2.怖くない