学校であった怖い話
>四話目(荒井昭二)
>B4

「袖山君、何だかみんなが僕達のことを見ているようだけど……」
僕がそういうと、みんなはいっせいに目をそらしました。
荷物を整理していた袖山君が顔をあげる頃には、みんな全然別の方向を向いていたのです。

「え、見ていないじゃないか」
袖山君は、再び荷物を片付け始めました。
僕は、もうなにもいわずさっきの言葉を気にするのはやめようと自分にいいきかせたのです。

その日から、つらい練習が始まりました。
でも、夕食後は自由時間でしたから、ゆっくりできます。

みんな、携帯用のテレビゲーム機や、コンパクトCDプレーヤーを持ってきていました。
そうでない人もマンガや小説を持ってきたり、トランプやゲームを持ってきたりして、みんなベッドの上でそれぞれの時間を過ごしました。

僕は、袖山君と、勉強のことや趣味のことをいろいろ話しました。
楽しいときは、あっという間に過ぎていくものです。

消灯の時間になり、僕たちは練習の疲れもあってすぐに寝てしまいました。
遅くまで、話しあっている人たちもいたようですが、僕もすぐに眠ってしまいました。
ただ、夜中に袖山君がうなされていたような気がしたことを覚えています。

合宿というのは、ふだん起きられない朝でも起きられるものですね。
起床の時間になると、突然周りがざわめきだしますから。
ふだんは、なかなか布団から出られない僕も、その日はあまり抵抗なく起きることができました。
袖山君は、眠い目をこすりながら、何だかげっそりしているようでした。

「あまりよく寝られなかったようだね……」
僕が、そういうと彼はこくんと頷きました。
「うなされていたようだけど……」
「……あまり、覚えていないんだ」
疲れたように、そう答えました。
そこで、僕は気づいたんです。

彼の右手の甲に、小さな青いアザができていたことを。
「どうしたの、そのアザ? どこかにぶつけたの?」
「……さあ、わかんないな。あまりよく、覚えていないんだ」
面倒臭そうに、彼はそう答えました。

その日の練習の間、袖山君はとってもつらそうでした。
息をするのもつらそうに肩を落とし、始終げんなりしていました。
僕が話しかけると照れくさそうな笑みを浮かべて答えてくれた袖山君は、たった一日で別人になってしまいました。

その日の夜、また袖山君は寝苦しそうでした。
次の日の朝、彼の顔色は、もっと悪くなっていました。
そして、手のアザが昨日より大きくなっていたんです。
まるで、何か重いものを長い間乗せていたような、もしくは思い切りつねられたような、見るからに痛そうなアザでした。

「……袖山君。大丈夫かい?」
「……………………うん」
「手のアザ、痛くないのかい? 昨日より、ひどいようだけれど」
「……………………うん」
彼は、言葉すくなでした。

そんな日が何日か続きました。
そして、日に日に袖山君の体調も顔色も悪くなっていったんです。
まるで、生きているのか死んでいるのかわからない袖山君。
それにともなって、右手についたアザも大きく、そしてどす黒くはっきりと印を刻んでいったのです。

そして最終日の練習で、ついに彼は倒れてしまったのです。
「ベッドに……僕をベッドに……」
そればかり、彼は呟いていました。
暑かったですから。
日射病じゃないかということで、ベッドで休ませることにしました。
夏休みですから、保健の先生もいませんでしたしね。

「荒井、お前ついていってやれ」
先輩にそういわれ、僕は袖山君を連れていきました。
別にいわれなくても、その役は買ってでるつもりでしたけどね。

その時、僕ははたして4番ベッドに寝かしていいものかどうか悩みました。
みんなの、関わりあいになりたくないような他人行儀のまなざし。
そして、あの二人の会話。

僕は、しっかりと覚えていましたから。
坂上君、僕はその時どうしたと思います?
1.4番ベッドに寝かせる
2.ほかのベッドに寝かせる