学校であった怖い話
>四話目(荒井昭二)
>J3

……そうですか。
坂上君て、僕とは立場の違う人間なんですね。

この世にはね、支配する人間とされる人間がいるんです。
君は、支配するタイプの人間なんですね。
僕は、支配される方が気楽でいいんですけどね。
……そうですか。
坂上君て、そういう人だったんですね。

……まあ、いいです。
話を続けましょう。
僕は、負け犬の集まりのサッカー部が気楽で好きだったんですけどそう思わない人も中にはいたんですよ。
とりあえず、うちのサッカー部はそれなりに強いですから。

僕の思い描く楽しいクラブ活動とは程遠かったんです。
練習はきついし、みんな真剣だし。
でもね、僕と同じ気持ちの人間も多かったんですよ。

弱くてもいいから、もっと和気あいあいとしたサッカー部を望んでいる人間たちもね。
それで、僕は気の合う友達を見つけました。
僕と同じように、厳しい練習が嫌な一年生でした。

袖山勝君ていいましてね。
彼は、体が弱かったんです。
それで、お母さんにいわれて、仕方なく運動部に入ったそうですよ。
サッカー部だったら、人数も多いし、さぼれると思ったんですって。
僕と似たようなものですよね。

でも、いざ入ったら大違いで、落ち込んでいましたよ。
僕たちはすぐに仲よくなれました。
そのころ、もう僕たちはサッカー部の落ちこぼれでしたから。
いつやめたってよかったんです。

でも、袖山君は、いい奴でね。
サッカー部をやめるとお母さんが悲しむからっていって、地獄のようなつらい練習も、休まないで頑張っていましたよ。
僕は、はっきりいってやめたかったですけど、袖山君がいましたから。
僕もつき合って頑張ったんです。

それに、学生時代に運動部に入っていれば、就職のとき、面接の受けがいいっていうじゃないですか。
だから、僕も続けていたんです。
それで、夏休みの合宿になりました。

合宿って、僕はあんまり好きじゃないんです。
集団で、規則正しい生活を無理強いされ二十四時間管理される。
そういうのは、僕は許されざる行為だと思うんです。
それが、一週間も続くんです。

袖山君がいなかったら、僕は合宿に参加せず、そのままサッカー部をやめていたでしょう。
集団生活って苦手ですから……。

合宿が始まると、最初は宿泊施設に通されて、自分のベッドを決めるんですよ。
初めて見た宿泊施設は、何とも陰気な感じでした。
窓といえば、何とか頭が出るか出ないかぐらいの小さな天窓がついているだけで、少しも陽が当たらないんですよ。

まるで、牢獄のようで、じめっとしていて、無機質な二段ベッドが碁盤の目のように並んでいる。
それだけなんです。
宿泊施設といっても、ベッドがあるだけですよ。
ベッドも、パイプベッドでヘッドライトなんてありませんし、敷布団も薄くてガチガチでした。

まるで、畳の上に寝ているようなものですよ。
宿泊施設というよりも、はっきりいって収容所のイメージでしたね。
それでも、合宿を喜ぶ連中もいました。

みんなで一緒に食事をして、みんなで一緒に寝る。
そういう集団生活に、胸躍らせる人たちもいるんですよ。
僕は、理解できませんけどね。

「俺、このベッド取った!」
「俺はこれ!」
とか口々にいって、好きなベッドを取り合うんです。
どのベッドだって、同じだと思うんですが。

「荒井君、どこにしようか?」
袖山君は、そう僕に聞いてきました。
できるならば、隣合わせのほうが、いいじゃないですか。
僕が気のあいそうな人は袖山君だけでしたから。
見ると、もうほとんどのベッドは埋まっていました。

選ぼうにも、隣どうし並んで空いているところといえば……。
「……ここしかないね」
そういうと、袖山君は、入口から遠い二段ベッドの上の段に、自分の荷物を放り上げたのです。
その右隣が、空いてました。

「じゃあ、僕はここにするよ」
僕は、袖山君の選んだベッドの右隣りに荷物を乗せました。
「……おい、あいつ、4番ベッドを選んだぜ」
「……ああ。馬鹿な奴だな」

僕は、近くでささやきあう二人を見逃しませんでした。
4番ベッド?
僕は、ベッドの縁を注意深く見ました。
僕のベッドには、『2』というナンバーが振られていました。
袖山君は、二人の話に気づいていないようでした。

僕は、そっと彼のベッドを覗いてみると……。
彼のベッドには、『4』というナンバーが振られていたんです。
その時、僕は初めて気づきました。

袖山君に、かなりの注目が集まっていることを。
みんな、自分たちの荷物を片付け、見て見ぬ振りをしながら、ちらちらと袖山君のこと、というよりも4番ベッドのことを気にしているようでした。

僕は、そのことを袖山君に話すものかどうか迷いました。
いうべきでしょうか。
それとも……。
どうしたと思います?
1.いった
2.いわなかった