学校であった怖い話
>四話目(細田友晴)
>C9

ノブをつかんだ手もガタガタと震えている。
全身を襲う震えはおさまりそうもない。
僕は、思い切ってドアを開けることにした。
ノブをゆっくりと回す。

カチャリという音がして、手前にドアを引くと、ゆっくりと動いた。
鍵はかかっていない……。
あとは、僕が力を入れなくとも、ドアは自然に開いていった。

ゆっくりとゆっくりと、ドアが開き個室の中をさらけ出していく。
……なんだ誰もいないじゃないか。
僕は、ほっと安心した。
もし中に化け物でもいたらどうしようと思っただけに、今まで張り詰めていた緊張が、一気にほぐれた。

……え?
誰もいない?
安心していいのか?
誰もいないとなると、今ドアをたたいていたのは誰なんだ?
内側から聞こえてきたあの音は何なんだ?
いったい、誰がたたいていたというんだ。

「うわっ!」
思わず、僕は飛び退いてしまった。
どうしたんだ!
この音は何なんだ!
残りのトイレのドアが、一斉に大きな音を立て、揺れ始めた。
まるで、今にもドアが壊れてしまいそうなほど、激しくドアが揺れている。

中に閉じ込められた人が、恐怖のあまり激しくドアを蹴飛ばしているような音。
何とか外に出ようと、ドアに体当たりを食らわしているような、そんな音がトイレ中に響いた。

「やめてくれっ!」
僕は、思わず叫んでいた。
それで音が鳴り止めば、どんなに素晴らしかったろう。
音は、それに逆らうようにして、さらに激しさを増したようだ。
全身の水分が、すべて汗になって噴き出されるような感覚に襲われた。

今までに、これほどの恐怖を味わったことがあるだろうか。
見えない恐怖。
これから、何が起こるか想像もできない恐怖。
確かにこのトイレには何かがいる。
しかし、その何かがわからない。

全く得体の知れない未知の存在に対面したときの、言い知れぬ不安感。
目まいがする。
吐き気がする。
空気がまるで固まってしまったかのように、うまく息をすることができない。

ゴルフボールのような固まりを、無理やり飲み込まされているような感覚。
こんなに息をすることが、つらかったなんて……。
動悸が激しくなり、何をしていいかうまく考えがまとまらない。

どうする?
どうすればいい?
1.叫ぶ
2.ドアをたたき返す
3.逃げ出す