学校であった怖い話
>四話目(福沢玲子)
>G5

あっそう、ないの?
ふーん……。
それじゃあ、私がいくら旧校舎の話をしたって、臨場感がわかないよね。
やーめたっと!
違う話をするわ。
そうね……。

坂上君は、好きな人っている?
誰かを、自分だけのものにしたいとか思う?
そういう気持ちが少しでもあるのなら……。
この話を聞いてほしいの。

赤い宝石の代表は、ルビーだっていわれているよね。
でもルビーって真紅じゃないのよ。
ちょっと、赤に影をさしたような色になっているの。
真紅の宝石っていったら、ガーネットの方がふさわしいと思う。

でも、なぜ赤い宝石の代表がルビーになっているのかわかる?
私、思うんだけど……。
本当に価値のあるルビーは、「ピジョン・ブラッド」っていうじゃない。

鳩の血の色って意味なんだけど。
ルビーの赤って、血のような色をしているのよね。
坂上君、私のいいたいこと分かる?
そう、真紅より血の色の方が選ばれたってことなのよ。

血の色って、人の心に与える影響が大きいんじゃないかな。
だから、赤い宝石の代表はルビーになったんだと思う。
よく、ルビーは希少価値があるから代表なんだとかいうけど、私はそうじゃないと思う。
血の色だからだよ……。
……そろそろ指輪の話をするね。

何年か前、この学校に、石川小夜子っていう女生徒がいたの。
守ってあげたいって思わせるようなタイプの子。
ちょっとおとなしくて、かわいくて、困った時は泣きそうな顔になって……。
でも、泣かないようにこらえるところがいじらしくて。

性格も素直でね、男の人にわがままなんていわないタイプの子だったの。
彼女は、恋人からルビーの指輪を貰っていてね。
それをとても大切にしていたの。

彼女の恋人は、違う高校に通っていてね。
小倉くんっていったんだけど。
アルバイトをして、彼女に指輪を贈ったんだって。

それで石川さんは、先生の目を盗んではこっそりと指輪を身に付けていたの。
二人の仲は、クラスでも有名だったって。
でも……。

実はそのころ、石川さんのことを好きな人が学校にいてね。
それ、理科の先生だったんだけど……。
深山先生っていったの。
石川さんは他の男性には興味がなかったけどね。

深山先生は石川さんに夢中で、彼女ばっかりひいきにしたり、よく話しかけたりしていたの。
それって、ちょっと問題よね。
だから、深山先生は職員会議とかでよく注意されていたみたい。
でも、いっこうにその態度をくずさなかったのよ。

一方彼女は、ちょっと迷惑だなと思いながらも、深山先生を特に避けたりとかはしていなかったの。
やっぱり、大切に扱われること自体は悪い気はしなかったみたい。
女の子って、そういうところがあるのよね。

そんなある日、彼女の恋人……小倉くんが、病気で亡くなってしまったの。
彼女はすごく悲しんだ。
小倉くんの枕もとにずっといて、最期の別れの瞬間まで彼の手を握っていたの。
彼は、石川さんの指にはめられているルビーの指輪を見ながらこういったそうよ。

この先どんなことがあっても、僕の気持ちは変わらない、って。
……この先なんてなかった。
彼の死は間近だったの。
彼にも、それはよく分かっていたはずなのに……。

彼女の指にはめられた、ルビーの指輪にしずくが落ちたわ。
「泣いてるの?」
彼がちいさくつぶやいた。
泣いちゃいけない、と彼女は思ったわ。
別れ際に、暗く沈むのは嫌だったの。

最期まで彼の手を取って、彼の言葉をちゃんと聞き、伝えたいことを話し、姿をしっかりと見ていたかった。
泣いたらそれができないじゃない。
目は涙で曇り、声は嗚咽で枯れ、心は悲しみで一杯になってしまう……。
彼女は必死でこらえようとした。

彼は、そんな彼女の手を握ろうとしたわ。
でも、だめなの。
力が入らないのよ。
でも彼は、強く強く握ろうとしたの。
彼女にはそれがよく分かった。
だから、よけい悲しくて……。
………。

そんなことがあってから、彼女はずっと沈んでいたの。
友達に慰められても、気持ちは一向に晴れなかったみたい。
そんなある日、彼女が指輪をはめているところを、深山先生が見つけてね。
指輪を没収しちゃったの。

たてまえは、学校に指輪をはめてきてはいけない、ってことだったらしいけど……。
本音は違うわね。
嫉妬したのよ。

彼女に指輪を贈った相手にね。
彼女は、すごく悲しんだ。
ルビーの指輪は、彼との思い出の品なのに。
彼の、形見でもあったのに……。

それで、彼女は指輪を返してもらう為に深山先生の所に行ったの。
でも先生は、指輪を返してくれなかった。
それで彼女、どうしたと思う?
1.指輪を諦めた
2.指輪を諦めなかった
3.先生を殺した