学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>F6

やっぱりそうですか。
坂上君は、目立ちたがり屋さんですね。
なんといっても目立てるし、派手だし、華々しさがありますよね。
人気があるのも役者だし。
スターという言葉が、よく似合いますよね。

もし学園祭で、自分たちの映画を上演したら、主役をやっている人が人気者になるもんです。
でも大変ですよ。
目に見えるものだから、上手い下手が一番現れますからね。
僕が凄いと思う役者さんは、どんな役でもそつなくこなしてしまうんです。

まあ、役者さんは、そうでなければいけないんですけどね。
その、映画、映画の役柄にピタッとマッチしてしまう。
それは、もうある意味で職人芸ですね。
まあ、それを知ってか知らずか、役者をやりたいって思う人はたくさんいますよ。

時田君は、監督をやりたいということでした。
彼の夢でもありましたからね。
先輩達も、特に反対はしませんでした。
この、会の創設者は時田君でしたし。
それに、機材を持ってきたのも彼なんですから。

そして、記念すべき同好会の第一回作品の撮影が開始されたのです。
ちょうど、去年の今頃だったと思いますよ。
……あなた、ホラー映画やSF映画が好きなんでしたっけね。
実は、彼もなんですよ。

彼が撮ろうとした映画は、『ミイラ人間と美女』というタイトルのホラー映画だったんです。
タイトルで笑っちゃだめですよ。
彼が撮りたかったのは、今あるような特撮バリバリのSFX映画ではなく、どちらかというと往年の古風なモンスター映画を撮りたかったんですよ。

もっとも、派手な特撮を撮ろうとしても、そんなもの撮れるわけないですからね。
ですから、そういうものにこだわらず、簡単な衣装とメイクを施しただけのちゃちなモンスター。
でも、リアルに見えるような暗い演出と雰囲気作りにこだわったんです。
彼は本当に一生懸命でした。

最初はやる気を見せていた連中も次第に飽きてくるものです。
結局は自分のしたいことだけをして、興味のないことや、大変な仕事はしたがらない。

大半は、遊び半分で集まってきた連中ですからね。
それでも時田君は、ごく少数の志を同じくする人たちに助けられながら、雑用から役者までこなして、頑張りました。

そんな彼に、僕は心の中でエールを送っていましたよ。
映画の内容ですか?
シナリオも時田君が書きました。
簡単な内容はこうです。

エジプトから運ばれてきたミイラが、復活してしまい、昔自分が仕えていた王女の生まれ変わりを捜すというものでした。
そして、最後にはその女性もミイラにしてしまい、一緒に自分の柩の中に入れて、二人でエジプトに帰っていく。
簡単でしょ。

まあ、役者が大根ですから。
それに、学生でしょ。
舞台の大半は学校になります。
ですから、主役のヒロインも、この学校の生徒でセーラー服を着ている。
それが、エジプトの王女の生まれ変わりなんですからね。
何とも怪しい設定ですよね。

それでも、どうにかこうにか撮影は終了しました。
でも、これからが大変なんです。
撮影をすれば映画が出来上がると思っているでしょうが、大間違いですよ。
おもしろくするもしないも、これからの編集作業にかかっているんですからね。

今まで撮ったフィルムに収められたバラバラのシーンを、一つずつつなぎあわせていくんですよ。
そして、一本の映画が完成する。
これが、けっこう根気のいる仕事らしいですよ。
まあ、好きな人にはたまらなく楽しい仕事なんでしょうけど。

で、時田君もそうでした。
時間が経つのも忘れて、編集作業にいそしんでいたんです。
「……あれ? 変だな。こんなシーン撮影したかな」
彼は、ふと一本のテープを見て、首を傾げました。

それは、ミイラ男のシーンでした。
ミイラ男が、暗闇の中を王女の生まれ変わりを捜して、のそのそと歩き回るシーンだったんです。
確かに、それに似たシーンは撮ったのですが、彼の記憶とも絵コンテとも違ったんです。
映画を撮るときは、最初に絵コンテというものを作るんですよ。

そして、それに合わせてシーンを撮影していく。
そうしないと、撮り終わったときに何が何だかわからなくなってしまいますし、限られた時間内で効率よく撮影していくことはできませんからね。

「僕の撮ったシーンは、確か遠くから遠景でミイラを撮ったのに……。
それなのに、ミイラがアップで映ってる」

彼は、思わず、そのフィルムに見入ってしまいました。
そのフィルムには、確かにミイラの顔がはっきりと映っていました。
それも、自分が施したメイキャップよりも、ずっとグロテスクでリアルなものでした。
かなりのホラー映画を見ているはずの時田君でさえ、そのフィルムを見たときは背筋がぞっとしました。

それほど、よく撮れていたのです。
自分は、そんなカットを撮った覚えはない。
でも、記憶違いかもしれない。
それほどよくできたシーンを、時田君が使わないわけがありません。
彼は、そのシーンを編集しました。

しかし、次の日、ほかのフィルムを見ていると、また彼の撮った覚えのないシーンを発見したのです。
映画を撮影するときは、実際の上映時間数の何倍ものフィルムを回すわけですから。
フィルムの本数は、相当な量になってしまうんですよ。

そのシーンは、謎の連続殺人事件を調べていた刑事がミイラ男に殺されるシーンでした。
もちろん、刑事を演じているのは映画同好会の一人です。
実際に殺されるシーンなんて、簡単なものでした。
ミイラに襲われる刑事が、逃げる。

その刑事の首にミイラの手が伸びて、画面は真っ暗になる。
そして、刑事の叫び声。
あとは、ミイラの血まみれの手のアップ。
それなのに、そのフィルムには、はっきりと刑事の死んでいくシーンが映っていたんですよ。
その何というリアルなことか。

刑事の出番なんてほとんどありませんでしたから。
というのも、その役をやった人は、あまりに演技が下手で、あまり出番を増やせなかったんですよ。
それが、あまりの迫真の演技。

ミイラに首を絞められて、苦しそうな表情の刑事。
そして、その口元からこぼれ落ちる一筋の真っ赤な血。
地面に倒れ、動かなくなる刑事。
そんなカットが次々に映し出されました。
いくらなんでも、こんなシーンを撮った覚えはありませんでした。

しかし、それが実によくできていたんです。
それで、彼はためらう事なくそのシーンも編集し、本編に取り入れました。
その次の日でした。
刑事役をやった生徒が殺されたんです。

首を絞められてね。
その時の状況を聞いた時田君は、耳を疑いました。
まるで、あの時のシーンにそっくりじゃないですか。
彼の首を絞めた犯人は判らないそうです。
だって、彼は夜中に一人で自分の部屋で寝ていたんですから。

誰も忍び込んだ形跡はないし、部屋があらされた様子もない。
疑われるのは家族ですよね。
時田君は、恐ろしくなってしまいました。
もしかしたら、自分があのフィルムを見たために、彼が死んだとしたら……。
これが、ミイラの呪いだったとしたら……。

あなただったら、どう思いますか?
その映画の編集作業を続けたいと思いますか?
もし続けたら、もっと変なものが映っているかもしれませんからね。
1.編集を続ける
2.もう編集をやめる