学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>F7

ふふ……残酷ですね、あなた。
そんな性格だと、どうなっても知りませんよ。
でも、時田君も同じでした。
死ぬほど映画が好きでしたからね……。
もしかしたら、この映画は歴史に残る傑作になるかもしれない。
そう思うと、何より先に、編集を続けたくなったんです。

そして、その日見たフィルムにはもっと変なものが映っていたんですよ。
今度は、王女の生まれ変わりのヒロインが、柩に閉じ込められるシーンでした。

シナリオでは、彼女はミイラを見てあまりの恐ろしさに気を失い、そのままミイラの柩に閉じ込められるというものでした。
ところがどうです。

そのフィルムに映っていたのは、目を背けたくなるような残虐シーンだったのです。
ミイラは、彼女の内臓が潰れるほどの強さで、抱きしめました。
そして、あろうことか、彼女の手足を引きちぎり始めたのです。

一本、一本、ていねいに。
彼女はまだ死んでいませんでした。
血まみれの身体をよじらせ、必死にミイラから逃れようと暴れました。
けれど、だめでした。

ミイラは、彼女の手足を一本残らずもぎ取ると、それを柩の中に放り込みました。
そして、最後には首をねじり取り、残った身体を無造作に柩に投げ込みました。
そして、彼女の首に頬ずりし、抱きしめました。

それで、フィルムは終わりました。
時田君は、そのシーンを、呆気にとられて見入りました。
ホラー映画にもいろいろあって、血まみれシーンが続々出てくる映画をスプラッターとか血しぶき映画とかいうんですよ。
今、時田君の脳裏に焼きついた映像は、そんな生半可な表現では表し切れないものでした。

「……こんな映画、見たことない」
その映画は、自分で撮っているはずなのに、変なものです。
映画がひとり歩きをしている。
時田君は、そう思い、何度も何度も繰り返しそのシーンを見直しました。
何度見ても、その新鮮さは失われませんでした。

そして、見るたびに違った恐怖が襲ってくるのです。
これは、どんな映画でも見たことのない迫真の演技だ。
そして素晴らしいメイキャップだ。
当然、そのシーンは映画のクライマックスに使われました。
もちろん、そんなに激しい残虐シーンを挿入した映画が、学校内で上映できるとは思えません。

それでも、彼は満足でした。
自主制作映画として、どこに売り込んでも成功するという確信を得ていたんですから。
その次の日でした。
……もう、おわかりですよね。

ヒロイン役の女性が惨殺死体で発見されました。
死体がバラバラだったそうです。
もちろん、詳しい話は聞けませんでしたけれど、時田君にはわかっていました。
その死体がどんな状態で、どんな風に殺されたかも。
そして、その証拠はあのテープにすべて収められていることも。

ちょうどその日の放課後だったと記憶しています。
時田君が僕の側に来て、この映画がどれほどリアルで、すごい作品かを話してくれたのは。

「今、すごい映画を作っているんだ。これは間違いなく傑作だよ。歴史に残る映画になる。
……君、映画好きだろ? よければ、ちょっとだけ編集シーンを見せてあげてもいいよ」

それで、僕はこの映画の話を聞いたんですけどね。
僕は、喜んで、彼のあとにくっついていきましたよ。
わくわくしてね。
1.大いに期待する
2.鼻で笑う
3.実際にみるまではわからない