学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>F8

そうでしょ?
彼の話を聞いたら、誰だって黙ってはいられないはずです。
真の映画好きならね。

映画研究会は、放課後の視聴覚室を使うことを許されていました。
まだ、クラブにはなれないので、部室はありませんのでね。
彼は、慣れた手つきで編集を始めました。

「今日は、特別に編集前の新しいシーンを見せてやるよ。クライマックスは壮絶なんだけれど、それは映画が完成してからのお楽しみだからね」

そして、山と詰まれたたくさんのフィルムの中から一本を取り出しました。
「……まだ、これは編集してないな。
今日はこれを見てみようか」
不思議な気分ですよ、まだ完成していない映画を見るのは。
僕は、初めて見ましたからね。
とても新鮮でしたよ。

カチンコが画面いっぱいに映って、演技が始まる。
何度もNGが出されて、同じシーンが次々と繰り返される。
おもしろいですよ。
「……あ!」
どうしたのか、突然、時田君が叫んだんです。

「どうしたの?」
僕は何が起こったのかわからず、思わず聞き返してしまいました。
「……僕が映ってる。止めなきゃ!
早く、止めなきゃ!」
僕は、彼が何をあせっているのかさっぱりわかりませんでした。
時田君は、必死に編集機材を止めようとあせっていました。

そんな機械の扱いには手慣れているはずの時田君なのに、指が震えているのか、うまく操作できないように見えました。
「止まらないよ……機械が止まらないよ!」
彼の顔は顔面蒼白でした。
僕は、驚いて、画面と彼の顔を見比べました。

画面には、時田君とミイラが映っていました。
「……すごいな。よくできたミイラだね」
僕は、本当にそう思いました。
作り物とは思えない、まるで本物のようなリアルさでした。

「殺されちゃう! 早く止めないと僕はミイラに殺されてしまうんだ! みんな、死ぬんだよ。この映画で襲われた奴らは、みんな本当に死んでしまうんだよ!」
時田君は震える声で叫びました。
正直、僕にはわかりませんでした。
その時です。

彼はこの映画の秘密を僕に話してくれました。
そんなことをいわれて、あなただったら、信じられますか?
僕は、悪いけれど信じられませんでした。

まさか、映画で起こった通りに人が死んでいくなんて。
画面の中の時田君は、恐怖におののき震えていました。
まるで、今僕の目の前にいる本人のように……。

「ひいいい!」
彼は、ついにコンセントを引き抜きました。
ところがどうです。
編集機材は動いているんですよ。
コンセントを抜いたはずなのにね。
「うわあっ!」
彼は頭を抱え、その場にうずくまってしまいました。

ちょうど、画面の中の彼もそうしていました。
映画のシーンを知っているのは時田君だけですからね。
僕は、彼が驚かそうとしているんだと思い、できるだけ平静を装いました。
でも、その時だったんです。

突然、包帯だらけの手が暗闇からヌッと突き出されたかと思うと、時田君の首をつかんだじゃないですか。
僕は、何もできませんでした。
あまりのことに、ただ立ちすくんでいるだけでした。

そして、暗闇からは、包帯だらけの手に続いて、顔に包帯を巻いたミイラが姿を現したんです。
乱暴に巻いた包帯の隙間から覗く目玉が、まるで死んだ魚のように、どろんとしていました。

「ぎゃあーーーーっ!」
時田君の断末魔が、視聴覚室に響き渡りました。

時田君の頭は、ミイラの手に鷲掴みにされ、握り潰されました。
ミイラは、まるでミカンのように、簡単に時田君の頭を潰したのです。
すっかり変わり果てた時田君の亡骸は、割れたスイカのようでした。
頭が握り潰されても、まだ時田君はぴくぴくと身体を震わせていました。

僕は、何もできず、ただ立ちつくしていました。
ふと我に返ったとき、もうミイラの姿はありませんでした。
暗闇に溶け込むようにして、いなくなってしまったのです。

あとには、時田君の死体だけが残っていました。
そして、それと同じ格好で死んでいる時田君の姿が、編集用の画面にも映し出され、そのシーンで止まっていたのです。

僕は、逃げました。
そして、そのまま家に帰りました。
こんな話、誰にしても信じてもらえないでしょう。
僕は、何も見なかった、そして何も聞かなかったことにしました。

……ねえ、坂上君。
君は、その映画を見たいと思いますか?
1.見てみたい
2.見たくない