学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>K4

「おう、よしよし。そんなにいじめて欲しいのかい?」
彼はニヤニヤしながらそういった。
そして、鯉を足で押さえつけると一枚一枚うろこをはがしていったよ。
その度に、鯉は短く身をよじらせていた。

その度に、彼は至福の喜びを感じていた。
「痛いかい? 痛いだろうねぇ。じゃあ、これはどうだい?」
薄暗い夕方、彼のささやくような声がトイレからそっと聞こえる。

彼はロウソクをトイレに灯していた。
そして、全部うろこをはがし終わると、息も絶え絶えの鯉にロウソクのロウをたらしたんだ。
ロウの暑さに身もだえした鯉は、その勢いで便器の中に落ちてしまった。
「ちょうどよかったねぇ。ほらほら……」

彼は、袋からひとつかみの塩をぱらぱらと鯉にかけた。
鯉は、うろこをはがされたうえに塩をかけられ大暴れした。
便器の水を彼にかけてしまったんだよ。
「なにすんだよ!! きったねえなぁ。
お仕置きだ!!」
彼は、手に持っていた塩の袋を逆さまにすると全部鯉にかけたんだ。

「きゅーーー」
と、鯉は叫ぶように動かなくなってしまった。
「俺を怒らすと怖いんだぜ。あはははは」
彼は笑った。

そして、鯉をナイフで細かく刻んでうろこと一緒にトイレに流した。
ごぼごぼという音と共に、鯉の肉片は流れていく……。
彼は、とても満足してトイレを後にしたのさ。

翌朝、彼はいつものように学校に行った。
そして、少し気になったのか例のトイレにいってみた。
もし、鯉の死骸の残がいがあったら困るしね。

トイレの中は、あの変な匂いがするだけで、特に変わりはない。
ふと気づくと、彼の手にうろこが一枚ついていた。
トイレに、まだうろこが落ちていたのかなと思い、水道で手を洗った。

するとどうだ、水道からはあのうろこが水に混じってどぼどぼと出てきたんだ。
彼は、急いで手を引っ込めたが遅かったよ。

手には、たくさんのうろこがこびりついていた。
取ろうと思って、手で払っても手を振ってもうろこは落ちないんだ。
そして彼は、ふと洗面台の鏡を見た。

「ぎゃーーーーー!」
彼は叫んだよ。
彼の顔には、びっしりとうろこが覆っていたんだから。
昨夜、自分があの鯉からはがしたものと同じうろこがね……。

そして、彼の首筋には魚のえらが、ぱくぱくと口を開けていた。
その時はもう、彼は声が出なくなっていたんだ。
聞こえるのは、ひゅるひゅるいうえら呼吸の音だけだったよ。
手には、水かきが生えてね……。

あとで、首を吊って死んでいる彼が発見されたそうだ。
その時の彼は、うろこもえらもない以前のままの姿だったって……。
彼は幻覚を見たのか……。

あれ以来ね、あそこのトイレには今でもたまに、うろこが落ちているっていうよ。
気持ち悪くなったかな?
もう聞きたくない?
1.聞きたくない
2.先を聞く