学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>M4

「おう、よしよし。そんなにいじめて欲しいのかい?」
彼はニヤニヤしながらそういった。
そして、鯉を足で押さえつけると一枚一枚うろこをはがしていったよ。

面倒くさくなった彼は、ナイフでいっぺんにうろこをはがしたんだ。
ぱりぱりいう音と共に、きれいにはがれるうろこ。
そして、うろこがきれいにはがれた鯉の腹にナイフを突き立てたんだよ。

「きゅーーーー!」
鯉は、叫びのような声を上げた。
本当の板前さんが、鯉をさばくようにはうまくいくわけがない。
鯉の内臓を取り出して、背中にナイフを入れたところで鯉は動かなくなった。

彼はその時、初めて知ったよ。
こんな大きな鯉になると、人間と同じ赤い血を流すんだな……、ってね。
そして、彼はがっかりしたよ。
鯉が、こんなに早く死んじゃうなんて……。

「せっかく、これからだっていうのに!!」
彼は、怒って目の前の鯉をずたずたに切り裂いたんだ。
そして、鯉の肉片をトイレに流した。
もっと、自分を楽しませてくれると思っていたのに……、と、ちょっとがっかりした彼はトイレを後にした。

翌朝、彼はいつものように学校に行った。
そして、少し気になったのか例のトイレにいってみた。
もし、鯉の死骸の残がいがあったら困るしね。

トイレの中は、あの変な匂いがするだけで、特に変わりはない。
ふと気づくと、彼の手にうろこが一枚ついていた。
トイレに、まだうろこが落ちていたのかなと思い、水道で手を洗った。

するとどうだ、水道からはあのうろこが水に混じってどぼどぼと出てきたんだ。
彼は、急いで手を引っ込めたが遅かったよ。

手には、たくさんのうろこがこびりついていた。
取ろうと思って、手で払っても手を振ってもうろこは落ちないんだ。
そして彼は、ふと洗面台の鏡を見た。

「ぎゃーーーーー!」
彼は叫んだよ。
彼の顔には、びっしりとうろこが覆っていたんだから。
昨夜、自分があの鯉からはがしたものと同じうろこがね……。

そして、彼の首筋には魚のえらが、ぱくぱくと口を開けていた。
その時はもう、彼は声が出なくなっていたんだ。
聞こえるのは、ひゅるひゅるいうえら呼吸の音だけだったよ。
手には、水かきが生えてね……。

あとで、首を吊って死んでいる彼が発見されたそうだ。
その時の彼は、うろこもえらもない以前のままの姿だったって……。
彼は幻覚を見たのか……。

あれ以来ね、あそこのトイレには今でもたまに、うろこが落ちているっていうよ。
気持ち悪くなったかな?
もう聞きたくない?
1.聞きたくない
2.先を聞く