学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>O4

彼はね、虫のボスを見つけようとしたんだ。
この虫の大量発生の原因は、虫の元締めが命令しているんだと、勝手に決めつけてね。
そしてある日の放課後、虫のボスを見つけるべく、彼は例のトイレまで行ったんだ。

そして、虫が大量にうごめいているトイレを棒で引っかき回しながらね。
気のせいか、棒で虫を引っかき回していると、どんどんその量が増えてきているような気がした。

「なぜなんだ!?」
彼は呟く。
便器の中や掃除用具入れや洗面台の中から溢れるように虫が湧いてくる。
だんだん日も暮れて、彼はトイレの電気をつけてなおも探していた。

そこは、トイレという空間よりも、何か得体の知れない生き物の胃の中のようだった。
床も壁も天井も、それ自体が生き物のようにざわざわと、うごめいている。
彼は、初めて恐ろしさを感じたんだ。
虫たちは、待っていたんだよ。
彼が来るのをね。

彼は、立ちすくんだ。
今まで、自分が戦おうとしていた相手の、本当の怖さを知った気分だった。

しかし、ここまできたからには、もう一歩も引けない。
半分意地になってしまっている彼だった。
「いったい、こいつらのボスはどこにいるんだ!?」
彼は、我慢できずに叫んだ。

すると、トイレの明かりに引き寄せられたのか、大人の顔ほどもある一匹の蛾が飛んできていた。
蛾は、彼の周りをゆらゆらと飛んで、まるで彼をバカにしているように見える。
「お前が、ボスか!!」
そういって、自分の顔に向かって飛んでくる蛾を棒切れでたたき落としたんだ。

叩かれたショックで、その蛾は鱗粉をまき散らしながらべちゃっと床に落ちた。
プリッと張っていた蛾の腹は、今は無残に潰れて黄色い内臓を飛び散らせていた。
まだ、ぴくぴくと羽をけいれんさせている。

それを見ながら、彼はここのボスを倒したんだという優越感に浸っていた。
トイレの薄暗い電灯に、蛾の鱗粉がきらきらと光る。
雪が降るように、鱗粉が舞い落ちている。

その時、彼はだんだん自分のからだが痺れていくのがわかった。
「しまった、あの鱗粉のせいか!?」
彼は、そういい終わらないうちに倒れてしまった。

目の前がだんだん暗くなり、意識が遠のいていく……。
遠のいていく意識の中で、彼の目の前には潰された蛾がうっすらと見えるだけだった。

彼は、死後三日ほどで発見されたらしいですよ。
死因は、トイレで足を滑らせて転んだときの打ち所が悪かったんでしょう、ということだったんだけどね。

その時の彼は、すごい状態だったらしいですよ。
なんでもね……。
腐りかけた彼の口の中から、さなぎから羽化した何匹もの蛾が、バサバサと羽を広げていたそうだよ。
彼の顔の上をダンスするようにぐるぐる回りながらね。

気持ち悪い話だろ?
だから、あのトイレには、虫の霊が渦巻いているのさ。
残酷な少年に殺されていった大量の虫たちの怨念が、あのトイレには染みついているんだよ。

……どうしたの?
気分悪いの?
顔が真っ青だよ。
もう話すのやめようか?
それとも、もう少し聞く?
1.もうやめてほしい
2.もう少し聞く