学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>Q10

彼女は、思い切って声を出したの。
「……もしもし」
それでも相手は何もしゃべらない。
「え? 何?」
でも、よく耳をすませると、何だかとても小さな声が聞こえてきたわ。

「…………と……づ……」
彼女は受話器を耳に押しつけて、何をいっているのか聞き取ろうとした。

声は、こういっていたわ。
「……もっと……もっと……耳を近づけて……」
子供みたいな声だった。
幼い女の子のような声。

彼女は、ぴったりと耳に受話器を押しつけたわ。
痛くなるほどね。
その時だった。
「ぎゃーーーーーーっ!」
矢口さんは受話器を放り投げたの。

その耳から、熱くてヌルッとした液体がほとばしっていたわ。
そう、彼女の耳は何者かにちぎり取られたのよ!

投げ出されてブランコみたいに揺れている受話器を見ると、耳に当てた部分が真っ赤に、染まっていた。
彼女の血よ。
そして、受話器はガチガチと歯をかみ鳴らしていたの。

わかるかしら?
耳に当てる部分が丸い口になってびっしりと鋭い歯を生やしていたのよ。

彼女は、逃げようとしたわ。
それでも、腰が抜けていてうまく立てない。
そんな彼女を、再び受話器が襲ったの。

コードが、蛇のように彼女に巻きついて。
鋭い歯が、ガリガリと彼女をかじりだしたのよ!
生きたまま食べられるなんて……。
坂上君、想像できる?
きっと痛くて、くやしくて、できることなら夢であってほしい……と思うんでしょうね。

ひと飲みにしてくれれば、まだ楽でしょうけど、相手が受話器じゃ、そうもいかないものね。

……次の日、矢口さんは発見された。
小動物の集団にかじられたようなそれは無残な死体だったそうよ。

どうして彼女が、その電話に見込まれたのかはわからない。
でも、もしかしたら、オバケ電話は矢口さんのことが好きだったのかもしれないわね。
だから、永遠に自分のものにしようとした。

……うふふ、はた迷惑なと思うかもしれないけど、私にはなんとなくわかるなあ。
好きな人を自分のものにするためなら、どんなことでもできそうな気がするもの。
うふふふふ……。

私の話は終わりよ。
さあ、どうかしら坂上君?
私のこと、恋人にする決心はついた?
1.ついた
2.つかない