学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>S10

声を出すのもためらわれて、彼女は黙っていたの。
すると、受話器の向こうで声が聞こえた。
「………………るよ……」
「えっ?」
遠かったけど、確かに聞こえたの。

彼女は受話器に耳を押し当てた。
「なんですか? なんていったの?」
その耳元に、今度は息づかいさえ聞こえそうなほど近い声が聞こえたの。

「僕はここにいるよ……」
矢口さんはぎくりとしたわ。
「僕はここにいるよ……」

繰り返すその声は、続いてとんでもないことをいい出したのよ。
「君の、すぐ後ろに……」
矢口さんは振り返ろうとした。
でも、できないの。
首の筋肉が固まってしまったみたい。
そしてついに、とうとう本当に背後から息が吹きかけられた。

「僕はここにいるよ……」
体温さえ感じられそうな、とても近い声。
耳の、ほんの数センチ横で、話しているような気さえしたわ。
でも、声は受話器から聞こえるのよ。

誰だか確かめたい。
でも振り向けない。

そのとき、彼女は電話の上にかけてある鏡に気づいたの。
これなら、振り向かなくても正体を確かめられる。
彼女は鏡を使って、自分の背後を見たわ。

そこには…………誰もいなかった。
誰もね。
でも、耳元の息づかいは聞こえるの。
そいつはいったわ。
「君の声をちょうだい……」
矢口さんは悲鳴をあげた。

そして、気を失ったの。
次の日発見されたとき、矢口さんは声をなくしていたわ。
きっと、恐ろしい目にあった精神的ショックのせいだろうって、お医者はいったそうよ。
でも、そんなんじゃない。
あいつに声を奪われたんだって、彼女は信じているの。

いつだったか、伊達君が矢口さんにあそこから電話をしたじゃない。
そのときに、きっと気に入られてしまったのね。
だから、あそこで天気予報か番号案内にかけると、機械じゃなくて、矢口さんの声が聞こえるっていうわ。

私は、まだ試したことないけど。
これで私の話は終わりよ。

さあ、どうかしら坂上君?
私のこと、恋人にする決心はついた?
1.ついた
2.つかない