学校であった怖い話
＞五話目（岩下明美）
＞V10

彼女は受話器を取らなかった。
すると、ベルが鳴り止んだの。
そうなると皮肉なもので、彼女は電話が気になってしょうがなくなったのね。

それで、そっと手を伸ばした。
受話器を取ろうとしたとき、背後から肩を叩かれたの。
飛び上がって振り向くと、そこには伊達君がいたのよ。
「ここだったのか」
そんなことをいっている。

矢口さんは、ちょっと怒ってみせたの。
「ここだったのかって、なに？　伊達君、ここから電話くれたんでしょ。だから私……」
「俺、電話なんかしてないぜ」
伊達君は首を横に振った。

「ええっ？　だって……」
「矢口さんから電話くれるっていうから、俺待ってたんだぜ。でも、なんだか胸騒ぎがして……捜しに来たんだ」
矢口さんは何もいえなかった。

驚いたのもあったし、伊達君がそこまで心配してくれたのが嬉しかったせいでもあるわ。
だけど、それなら電話してきたのは誰？
そのとき、その疑問に答えるように電話が鳴り出したの。

そして、ベルの音にまぎれて、低くしわがれた男の声が聞こえた。
「よくも邪魔しおって……もう少しで、彼女は俺のものになったのに」
声は電話から聞こえた。
まだ、受話器を取っていないのに。

「なんだこれ？」
そういって、伊達君が手を伸ばした。

すると、受話器がひとりでに外れたのよ！
受話器は伊達君を襲い、コードで首を締め上げた。

「やめて！」
矢口さんは飛びついたわ。
でも、受話器の一撃をこめかみに受けて、気を失ってしまったの。

…………そして次の日、二人は発見された。
伊達君が電話のコードで絞め殺されている横に、倒れている矢口さん。

通俗的な大人たちは、別れ話のもつれだと決めつけたわ。
矢口さんのいうことなんて、聞こうともしなかった。

まったく、大人たちの頭の固さったら。
ああいう大人こそ、亡霊に殺されてしまえばいいのよね。
そうは思わなくて？

……とにかく、事件はこれで終わったの。
伊達君が、あの公衆電話から彼女に電話をかけなかったら、こんなことにはならなかったんじゃないかしら。

あの電話にすんでいる悪魔は、きっと矢口さんの声を気に入ったのね。
それで、彼女を自分の世界に引きずり込もうとしたのに、伊達君に邪魔されたから……。

でもまあ、今さらこんなこと考えても遅いわよね。
なんでこんなことを知っているかって？
うふふふ……なんでかしらね。
なんでもいいじゃない。

さあ、どうかしら坂上君？
私のこと、恋人にする決心はついた？
１．ついた
２．つかない