学校であった怖い話
>六話目(岩下明美)
>D6

……それじゃあ、岡崎幸枝さんの話をしてあげるわ。

岡崎さんはね、かなりの財閥の娘さんだったそうよ。
それで、彼女のお父様が海外に行った際にルーベライズを手に入れたんですって。
当時の値段でも、家が一件買えるほどだったっていうから、ちょっとした海外みやげにしては、私たちの常識からは、かけ離れてるわね。

彼女は、その石をとても気に入ってね。
当時は、まだその石が幸せを呼ぶ石だってことを誰も気にしていなかったの。

ただ、世界的にみても珍しい石だってことで、学校でも話題になったらしいわ。
それで、大川さんに、彼女のことを話した女の子たちも、どこかからその噂を聞いたんでしょうね。

岡崎さんは、ピアノの上手な人でね。
まだ物心つく前から、ピアノの英才教育を施されていたの。
将来はヨーロッパの方へ留学するという話が決まっていたそうよ。
当時は、まだ留学なんて一般人がかなえられる夢じゃなかったから、すごい話だったわ。
それでも、彼女は嫌がったの。

日本が好きだったから、離れたがらなかったのよ。
それで、将来は両親の望む通りのピアニストになるという条件つきで、高校の間だけ日本にとどまることを許してもらったのよ。
両親は、当然のように名門の女子校を勧めたわ。

それでも、彼女は普通の高校生活を望んだの。
そういった意味では、親よりもよっぽどしっかりしたお嬢様だったってことかしらね。
そして、彼女は、ここに来た。

でも、この学校はね、大した設備もなかったわ。
とりあえずグランドピアノもあることはあったけれど、とても彼女の両親が満足するような代物じゃあなかったわ。
それで、ローマから最高級品を取り寄せて、学校に寄贈したの。

学校側は喜んだわよ。
今、新校舎の音楽室にあるのが、そのグランドピアノ。
でも、岡崎さんは喜ばなかったわ。

そして、そのグランドピアノよりも、旧校舎の片隅に眠る古いオルガンに魅かれたの。
オルガンなんて、ほこりをかぶったまま放りっぱなしで、使われていなかったわ。
それでも、彼女はなぜかそのオルガンに魅力を感じたのね。
当時は、まだ新校舎がなくてね。

授業のほとんどは旧校舎で行われていたの。
学校側としては、あれだけのグランドピアノをもらったわけでしょ。
彼女専用に、オルガンの使用を許可したのよ。
どうせ使っていなかったしね。
放課後になると、どこにいても彼女の弾くオルガンの音色が聞こえてきたわ。

それは、誰が弾くグランドピアノの音よりも、心が安らぐ暖かい調べだったそうよ。
その調べを聞きたいがために、多くの生徒が放課後も、何をするとはなく学校に残っていたという話よ……。

彼女が、なぜそのオルガンに魅かれたのかはわからない。
それでも、彼女が鍵盤に指を乗せると、そのオルガンは命を吹き込まれたように音に張りを見せたそうよ。

そして、そのオルガンを弾けば弾くほど、自分は本当に音楽が好きなんだと実感できた。
でもその反面、どんどんヨーロッパに留学する気持ちが失せていったの。
そして、できることならヨーロッパに行きたくないと願っていたわ。

そのころ、岡崎さんはね、お父様からもらったルーベライズをネックレスに加工してもらっていたの。
今でいう幸せを呼ぶペンダントってとこかしら。
そして、ヨーロッパに行きたくない行きたくないって願うたびに、そのペンダントを握りしめたの。

まるで、ルーベライズにお願いするようにね。
どう、坂上君?
あなたも神様とか神がかった存在にお祈りしたことってあるでしょう?
1.ある
2.ない