学校であった怖い話
>六話目(岩下明美)
>G7

あら、そう。
じゃあ、ルーベライズに願いを込めた、彼女の気持ちなんてわからないかしらね。
でもね、坂上君。
彼女の願いは、ちゃんと聞き入れられたのよ。

あの石には、本当に不思議な魔力があったの。
石の中に、悪魔でも住んでいたのかしら。
……そんなことを、いってはいけない?
そうね、あれは、願いを叶える石。

たとえ、どんな運命を引き起こそうとね。
うふふ……。
彼女の身に何が起こったか、教えてあげるわ。

ある日、いつものように彼女がオルガンを引いていると、突然、鍵盤のふたが閉まったのよ。
風もないのに、ものすごい勢いで。

それは、まるで悪魔の口のようだったわ。
ふたが、急速に落下してくる瞬間、きっと彼女には、それが鋭い牙を持ったどう猛な野獣に見えたことでしょうね。
彼女の奏でる調べに聞きほれていた人たちは、何事があったのかと驚いたわ。

突然、地獄の底から響いてくるような叫び声が聞こえてきたの。
みんな、急いで彼女のもとに向かったわ。
そこで、悲しい事故を目撃してしまったの。
オルガンのふたは閉まり、口を閉じているようだった。

その隙間から、まるでよだれを垂らすように赤い血がしたたっていたの。
そして、その側に彼女は倒れていた。彼女の手は真っ赤に染まっていたわ。
彼女を助け起こした人が、その手を取ってみると両手の人差し指が根元から、ぷっつりとなくなっていたの。

ふたを開けると、鍵盤の上に彼女の指が二本そっと乗っていたの。
すぐに手術が行われたわ。
まだあまり時間がたっていなかったせいか、何とか彼女の指はくっついたわ。
でも、元のように動かすことはできなかった。
普通の生活をすることはできてもあの華麗な演奏はとても……。

ずいぶん、落ち込んだという話よ。
彼女よりも、ご両親がね。
でも、これで彼女の願いはかなったの。
留学する必要はなくなったんですもの。

代わりに、ピアニストとしての夢も断たれたけれどね。
それでも、子供を集めてピアノを教えるくらいならできるわ。
彼女としては、ピアニストとして世界中を駆け回るよりも、小さな教室を開いて子供たちと一緒にピアノを弾いているほうが楽しく思えた。

そして、病院のベッドで、そういう将来を夢見て、退院の日を待ったの。
でも、財閥のお嬢様が、そういうささやかな夢を見るなんて、私からいわせてもらえば、ぜいたくなわがままだと思うわ。
そんなささやかな夢さえ、なかなかかなえられないのが一般人なのにねえ。

退院して、学校に通えるようになると、岡崎さんは真っ先にあのオルガンに会いに行ったの。
彼女は別にオルガンのことを恨んだりしなかったわ。
だって、あれは事故ですもの。

誰が悪いんでもない。
偶然起きてしまった、運の悪い出来事。
でも、彼女は音楽室に行って愕然としたわ。
あのオルガンがなかったの。

彼女は、あのオルガンがどこに行ったのか、先生に詰め寄ったわ。
最初は言い難そうにお茶を濁していた先生も、ついに彼女の押しに負けて口を滑らしてしまったの。
彼女のお父様の意思で、あのオルガンが遠くへ売られてしまったことをね。

お父様からしてみれば、あのオルガンは娘の夢と希望を断った根源ですものね。
なんの意思も持たないただのオルガンでも、許しておけなかったんでしょう。

でも、彼女はお父様を恨んだわ。
そんなひどいお父様なんか、もういらない。
そう思ったのよ。
あの、幸せを呼ぶペンダントを握ってね。
そして、こうも思った。

もう一度あのオルガンと会いたい。
あのオルガンのもとに行きたい。
そんなことを考えながら、彼女は失意のうちに、ふらふらと学校の外に出たの。
そして、交通事故にあったわ。

向こうからきた乗用車に、彼女ははねられ、即死だった。
息を引き取っても、彼女は幸せを呼ぶペンダントを握りしめていたそうよ。

あのルーベライズのパワーストーンをね。
後日談だけれど、その時、もうオルガンはこの世になかったそうよ。
彼女のお父様の言いつけで、オルガンは売られたんじゃなくて壊されていたの。
それをいうには忍びなくて、先生は売られたと嘘をついたのね。

でも、その結果が彼女の死を招いた。
オルガンは天国に行き、彼女もまた後を追ってオルガンのもとに行った。
今は、天国でオルガンでも弾いているのかしら。
幼くして死んだ天使たちのために……。

そして、彼女が最後まで握っていたペンダントは、彼女の遺骨とともに、岡崎家の墓に納められた。
お父様はとても悲しまれたそうよ。
そして、それから間もなく身体を病んで、まるで娘に誘われるようにしてこの世をあとにしたんですって。

彼女の願いはかなったわ。
ルーベライズは、彼女の願いを聞き入れてくれたの。
きっと彼女は幸せだったはずよ。
……どう?
ルーベライズの力がわかったかしら。
1.わかった
2.信じられない