学校であった怖い話
>六話目(岩下明美)
>I8

<お……お母様!!>
岡崎さんは、心の中で澄んだ声の女性に呼びかけたわ。
そうしたら……。
「幸枝!!
だまされるなといったでしょう!!
いいわ、見せてあげる。
オルガンの女の正体を……」

女の低い声がして、岡崎さんは頭に衝撃を覚えたわ。
殴られたようなショック。
そして、彼女は気を失ったの……。
気がつくと、岡崎さんは夜の学校に倒れていたわ。
「こ、ここは……?」
金縛りが解けていた。

立ち上がると、あのオルガンと美しい女生徒の姿が見えたわ。
彼女は、音楽室の前の廊下にいたの。
「幸枝、よく見なさい……」
ベッドの中で聞いた、女性の低い声がしたわ。
そして、彼女が目を凝らすと……。
オルガンの脇に、見知らぬ男性の姿が浮かび上がったの。

彼の手には、彫刻刀が二、三本。
彼はその刃で、美しい女生徒の頭を何度も突きはじめたわ。
そして、女生徒の頭からはドクドクと血が……。
「きゃーーーっ!!」
岡崎さんは、金切り声をあげたわ。

「幸枝、オルガンの女は、昔ここで殺された女生徒だったのよ。
あなたのお母様とは、何の関係もないわ。
見なさい、この惨劇を。
これは、前にこの学校で本当に起こったことなのよ。
幸枝……。
騙されてはいけないといったのに。

あの女生徒は、地縛霊よ。
あなたのような世間知らずのお嬢様を、だまして殺す悪霊なのよ。
ほら……」
彫刻刀をもった男は、岡崎さんに気付いたわ。
そして、ゆっくりと彼女に近寄ったの。
彫刻刀を、振り上げながら。

美しい女生徒は、頭に彫刻刀を刺したままブツブツいっていた。
「お母様よ、お母様よ、お母様よ……」
岡崎さんは、恐怖で頭の中が凍り付いたわ。
「お母様!! 助けて!! お母様!!」
彼女は、必死でたすけを求めた。

低い声の女性に向かってね。
でも……。
「幸枝。私は、忠告したのに。
私は、あなたのお母様なんかじゃないわ。
そんなことは、一言もいわなかったでしょう。

だめよ、私に願いごとをいうなら、ルーベライズを握ってくれないと。
私のかわいい幸枝……」
岡崎さんは、泣き叫びながらその場を逃げようとしたわ。
だけど、彫刻刀を持った男に取り押さえられ……。
「ぎゃああああっ!!」

岡崎さんは、翌日音楽室で発見されたの。
オルガンに頭を挟まれ、血まみれになって死んでいたそうよ。
学校側は、それを事故と判断したわ。
みんなは、岡崎さんが時々遅くまで学校に残っていたことを知っていたからね。

彼女は何か、秘密めいたことをしているうちに、事故に遭ってしまったんだろう。
そういう噂が流れたの。
彼女のお父様は、警察にいろいろ調べさせていたけれど……。

彼女を殺した犯人は、結局見つからなかったわ。
見つかるわけがないわよね。
彼女を殺したのは、地縛霊なんだから……。

岡崎さんがルーベライズに願ったことは、確かに叶えられたわ。
オルガンを弾く女性には何度も会えたし、正体も確認できたしね。
でも、その為に岡崎さんは殺されてしまったの。
彼女がもっと注意深かったら、こんな結果にはならなかったかもしれないわね。

岡崎さんの死体を発見した人は、背後から女性の低い声が聞こえたような気がしたそうよ。
「私のかわいい幸枝……
もっとはっきり願えばよかったのに。
お母様に会わせてと。

あなたのお母様は生きているのよ。
お父様とは絶縁していたけれど。
確かに、生きていたのに……」
声を聞いた人が振り向くと、そこにはルーベライズのペンダントが落ちていたというわ。
とても美しい光を、はなっていたそうよ。

……坂上君。
岡崎さんのこと、かわいそうだと思う? ルーベライズなんて、悪魔のような石だと思う?
……でも、彼女はルーベライズから幸せを与えられていた時があったのよ。
地縛霊が弾くオルガンの音色は、彼女を確かに幸せな気分にさせていたんだもの……。

……どう?
ルーベライズの力がわかったかしら。
1.わかった
2.信じられない