学校であった怖い話
>六話目(福沢玲子)
>C5

ふうん……。
二番目は家事なんだ。
性格には、そんなにこだわんないわけ?
わがままでも許しちゃうとか。
あのね、さっき話した平井さんってちょうどそういう人だったよ。

すっごくきれいで、趣味は料理だったの。
結婚願望が強かったからね、クッキングスクールとかに通っていたりして。
けっこう、坂上くんの好みだったかもね。
でも、趣味がちょっとね……。

ちょっとっていうか……。
さっき私、占いとかにあまりのめり込まない方がいいよっていったでしょ。
平井さんは、すごく占いに凝っていてね。
今日はラッキーデーとか、旅行に行くならこの日がいいとか、いろいろうるさい子だったの。

彼女自身には、特に霊感はなかったみたいなんだけど。
よく占いの店に通っていたみたい。
それでね、平井さんの彼氏は、田中君って名前だったんだけれど。
理想の高い彼女の相手だからね。

すっごく、かっこよかったのよ。
それに、頭も、性格もよかったの。
彼女、友達によくいっていたみたい。
田中君と、結婚したいってね。

でも、ある日いきなり彼氏に、冷たくされちゃったんだって。
彼女は、すごく悲しくてね。
いつも通っていた占いの店にいって、今後のことを占ってもらうことにしたの。

その店は、廃ビルの間にある細い道に、ぽつんとあってね。
黒いテントの中で、黒いローブをかぶった女の人が、一人で占いをしていたとこだったの。
平井さんは、占い師に頼んだわ。
田中君が、なぜ自分に冷たくしたのかを知りたいってね。

そしたら、彼には新しい彼女ができたんだっていわれてね。
おまけに、その新しい彼女はとても美人らしいって話だったのよ。
平井さんは、きれいだしスタイルもよかったし、自分にけっこう自信があったから。
ちょっとむっとしちゃってさ。

自分よりきれいなのかしらとか、いろいろ考えちゃったりして。
で、その子よりきれいになって、見返してやるとか思っちゃったんだって。
ちょっと、考え方ずれてるかなって気もするけど。
きれいかどうかだけで、付き合ったり別れたりするのかなあとかね。

でも、坂上くんみたいにルックスが一番っていう人もいるもんね。
そういうこともあるのかなあ。
それでね、平井さんの態度を見て、占い師はこんなことをいったんだって。
どうやったらもっときれいになれるか、教えてあげようか、ってね。

きれいになる為には、外見だけを磨けばいいってもんじゃないんだって。
どういうことかわかる?
魅力をつけろってことなんだって。
魅力って、いろいろあるよね。

やさしいとか、よく気が付くとか、そういった内面のほかにもさ。
その人の持つ雰囲気……笑顔とか、明るさとか。
性格からにじみ出る個性っていうのかな。
あるいは、フェロモンでも出てるんじゃないかって思っちゃうような、色っぽさとか。

フェロモンって、なんだかわかる?
異性を引き寄せる香りのことよ。
動物なんかが、異性の気を引く時に、体から発する成分なんだって。
人間の場合、そういう魅力は、付けようと思ってつけられるたぐいのものじゃないらしいんだけど。
占い師は、こんなことをいったの。

なんか、霊的な力を集めるような方法で、匂いたつような魅力を身に付けることができるんだって。
彼女は、その方法をぜひ試したいっていったわ。
それでね……。
占い師は、彼女に呪術の材料を用意してくれっていったの。

まず、彼女の髪の毛。
それを、一握り。
彼女は、髪を少し切ったわ。
占い師がナイフを持ってきて、ざくっと切ったの。

ブチブチッて音がしてね。
目をつぶってその音を聞いていた彼女の頭には、ある映像が思い浮かんだわ。
それは、神経の筋をまとめてブチブチ切っているところ。

髪には神経が通っていないのに、彼女は何だか痛いような、苦しいような気持ちになったわ。
それは、彼女の心の痛みだったんじゃないかしら。
そして、夜が明けて……。

次の朝、鏡を覗いた彼女は、自分がなんだか少し変わった様な気がしたの。
ちょっと、顔が細くなった感じがしたのよ。
占い師におまじないをしてもらったっていう期待。

それが、彼女の気分を変えることになったのね。
それで、前の日はふさぎ込んでいたのに、何だか気分が晴れ晴れとしてね。

彼女は、一日を楽しくすごしたわ。
平井さんは、田中君と別のクラスだったんだけど。
彼女はわざわざ田中君のクラスにいる友達に、教科書を借りに行ったりしてね。

そうしたら、田中君もきれいになった彼女のことを見ている気がしたの。
彼女は、一人で優越感に浸っていたわ。
……でも、そんな気分は、放課後には吹き飛んでしまったの。
平井さんは、みちゃったんだもん。

下校途中、田中君が、きれいな女の人と歩いていたのをね。
相手の女の人は私服だったわ。
だから、同じ学校の人ではないようだった。

平井さんは、あせったわ。
あの人が、田中君の新しい彼女なんだって思ってね。
それで、又占い師のもとにいったのよ。

「ああ、おまじないの効力はあったようですね」
占い師はニヤニヤ笑いながら、彼女を迎えたわ。
そして平井さんのことをほめたの。
身につけた黒いローブの裾を揺らしながら。

本当にきれいですよ、っていって。
でも、平井さんの心はおさまらなかったわ。
それで、彼女はなんていったと思う?
1.もっときれいにしてほしい
2.田中君の新しい彼女を呪いたい