学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>1D4

「い……嫌だ!」
そんなことはできない。
僕にだってプライドがあるんだ!
「へえ、そう。じゃあ、なめられるようにしてやろうか?」
パチンと、日野が指を鳴らした。

まるで映画で観たマフィアの子分のように、細田と荒井が音もなく動いた。
僕の頭を固定して、あごをつかむ。
奴らの指が、頬にめり込む。
ミシミシと嫌な音がして、僕の口は無理矢理こじ開けられた。

その中に、日野が靴を突っ込む。
「うぐっ!!」
「ほら、これで許してやるよ。俺が優しい先輩で、よかったなあ坂上?」
口の中に、泥とほこりの臭いが広がる。

吐き気がした。
でも僕は、それを必死に耐えた。
これ以上こいつらに、惨めな姿を見られるのが嫌だったからだ。
その代わりに、日野が靴を引っ込めた時に、睨みつけてつばを吐いてやった。

「懲りない奴だな、おまえ。この状態で、何ができるっていうんだよ」
新堂が、僕の腹を蹴りつけた。
「ぐはっ!」

「ほらな。蹴られたって、避けることもできねえだろ。もっと利口に振る舞えよ」
いいながら、新堂は何回も僕を蹴った。
肩に、腹に、脚に、その度に激痛が走る。

そんなに力を入れているようでもないのに、新堂は、かなりケンカ慣れしているらしい。
「まあまあ、その辺にしてやれよ」
笑いながら、日野が新堂の肩に手を置いた。
「日野様がおっしゃるのでしたら」

新堂は頭を下げ、素直に引き下がった。
日野様?
何なんだ、こいつらは。
変な宗教でもやっているのか?

「おまえは短気すぎるな。もう少しで、みんなの楽しみを奪うところだったぞ」
偉そうな日野の態度に、あの新堂が、何も口答えしない。
「申しわけありません……」
この七人には、何か他人にはわからない、強い絆のようなものがあるのだろうか。

その時、僕はハッと息を飲んだ。
気づくと、腕を縛った縄が、だいぶ緩くなっている。
これなら逃げられるかもしれない。
奴らを見上げる。
みんな、日野を見つめている。
機嫌を損ねないように、ピリピリと緊張しているのがわかる。

僕はこっそり、縄から腕を引き抜いた。
今のうちに、脚の縄もほどかなければ。
身をよじる。
大丈夫、まだ誰も気づいていない。
何度も動かすと、何とか縄が緩んだ。

これなら抜け出せそうだ。
呼吸を整え、タイミングを計る。
「いいか、俺の命令には絶対服従を誓え。そうでなければ……」
日野が、大きく腕を振った。

みんな、それに気を取られている。
今しかない!
僕は跳ね起きた。

ドアに向かってダッシュだ!
でもその時、誰かが僕の脚を引っかけた。
「うわあっ!?」
よろめいた。
バランスを崩して、棚に突っ込んでしまう。
背後で一斉に笑い声が上がった。

「ああもう、楽しませてくれるよなあ。予想したとおりのリアクションだよ」
みんなゲラゲラ笑っている。
僕は、血がにじむほど、くちびるを噛みしめた。
弄ばれている。
こいつらだけは、絶対に許せない!!

自然に、こぶしを握りしめる。
日野は目敏く、それに気づいた。
「殴りたいのか? 俺たちに手を出したら、おまえは死ぬんだぜ」
ニヤニヤと笑っている。

「今持っている解毒剤は、偽物なのさ。本物のアンプルは、この学校のどこかに隠してある。場所は、俺しか知らないんだ。俺を怒らさない方がいいんじゃないのか」
「ひ……卑怯者!!」
僕が叫ぶと、またどっと笑い声が上がった。

「おまえは俺たちの恨みを受けているんだ。これくらいは当然さ。ついでに、もう一つ。絶対に、学校の外に出るなよ。もし出ようとしたら、アンプルは処分させてもらう。何の毒かわからなければ、病院だって解毒のしようがないだろう。助かる方法は、この学校のどこかに隠されているアンプルを見つけることだ。いいな!」

何から何まで、考え尽くしてあるというわけか。
僕が奴らにできることは、何もないのか?
いっそのこと、何もかも捨てて、殴りかかってやろうか。
1.殴る
2.ここは我慢する