学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>1F4

どうしてもいえない。
いいたくない。
男には、どうしても曲げられないこともあるんだ。
「か……勝手にすればいいっ」
「生意気な奴だな!」
細田が、むっちりした腕を振り上げた。
しかしその時、日野が割り込んだ。

「まあ、待てよ」
「日野様……」
不満そうな細田に、ウインクしてみせる。
「なかなか骨のある奴じゃないか。
見直したぜ。それなら、こっちも対応を変えてやってもいいな」
日野は、アンプルをつまみ上げた。

「おまえみたいな男らしい男に、こんな卑怯なやり方をしてすまなかったな。さあ、これを受け取れ」
う、受け取れといわれても。
僕の手足は、固く結わえつけられている。
困惑する僕を見て、日野はニッと笑った。
「ほら、受け止めろよ」

その言葉と同時に、日野の指からアンプルがすべり落ちた。
息が止まった。
小さなアンプルは、一直線に床に落下する。
僕は体をひねり、何とか受け止めようとしてみた。
でも、もう少しのところで、アンプルは僕の手をかすめて落ちた。

薄いガラスの砕け散る、場違いなほど可憐な音が響いた。
中の液体がこぼれ出して、床に黒い染みを作る。
僕は、それをボンヤリ見つめた。
嘘だ。こんなことって……。

「ははは、今の顔!」
おかしくてたまらないという顔で、新堂が僕を指さした。
荒井もニヤニヤとうなづく。

「肉にかじりついたら、実はロウ細工でがっかりした犬って感じでしたね」
体中が、カーッと熱くなった。
こいつら、遊んでやがるんだ!
手足さえ自由なら、殴りかかってやるところだ。
日野が肩をすくめた。

「あーあ。せっかくの薬を無駄にして。でもまあ、気にするなよ。アンプルはもう一つ、あるんだから」
「なんだって? ほ、本当か!?」

「本当だとも。この学校のどこかに隠してあるのさ。毒が効いてくるまで、あと約五時間……いや、もう四時間半しかないか。その間に捜し出すんだな」
日野の言葉に、また笑いが起きた。

こいつら、なんて連中だ!
僕が必死に捜し回る様を見て、楽しもうってのか!?
「今、縄を解いてやる。いいか、自由になったからって、俺たちに手を出すなよ。俺たちに手を出そうものなら、そのアンプルは壊すからな。隠してある場所は、俺しか知らないんだ。そして、もう一つ。絶対に学校の外に出るな。お前がもし、学校の外に出ようとしたら、遠慮なくアンプルは処分させてもらう。

警察に行こうが病院に行こうが、お前の話なんか相手にされないぜ。お前が助かる方法はただ一つ。
この学校のどこかに隠されているアンプルを見つけることだ。守ることは、ただ一つ。学校の外に出ないこと。俺たちの復しゅうは始まったんだ。さあ、縄を解いてやる!」

岩下たちが、僕の縄を解いた。
これで手足は自由になった。
僕は、日野を思い切り睨みつけてやった。
なのに、日野は笑っている。

「おっと。殴りたいのか? 殴ってもいいぜ。そうしたらアンプルを壊してやる。どうする、坂上?」
1.殴る
2.ここは我慢する