学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>1J1

◆一話目で岩下が消えている場合の始まり方

……真っ暗だ。
頭が痛い。
……僕は、どうしたんだろう。
そうだ!
僕は、誰かに後ろから殴られたんだ。

そして、気を失って……ここは、どこだろう。
身体が動かない。
手足を、縛られているようだ。
眩しい!
突然、電気がついて、僕はあまりの眩しさに目を閉じた。

……ゆっくりと目を開くと、そこは見慣れた新聞部の部室だった。
僕は、新聞部の大きなテーブルに、荒縄で手足をくくりつけられていたのだ。
そして、目の前には七人の男女が立っていた。
見覚えのある顔。
新堂さんたちだった。
そして、彼らの中央には……。

「よお、坂上。気がついたかよ」
日野さんが立っていた。
この集まりを開いて、七人メンバーを集めた新聞部の先輩だ。
「日野さん!」

「何、驚いた顔してやがんだ。ずいぶんと間抜けそうなツラしてるぜ。
ひゃっはっはっ!」
日野さんが笑うと、残りの六人も笑った。
新堂さんが、口を開いた。

「おう、坂上。七人目のメンバーは日野様だったのさ。誰が話をしようと、六話目を話す奴はお前を図書室に連れていく。そして、あそこでお前を殴って、復しゅうを開始する予定だったんだよ」
復しゅう……?
復しゅうって何だ?

それよりまず、僕が驚いたのは、その場に岩下さんがいたことだ。
帰ったはずの岩下さんがそこにいる。
岩下さんが、僕を見て嬉しそうに笑っている。

「私の顔に何かついてるかしら?
私はね、帰ったふりをして、あんたに復しゅうするための準備をしていたの」

「……復しゅうって!?」
僕は、日野さん以外は全員が初対面だ。
復しゅうされる覚えなんかない。
彼らが何をいっているのかわからなかった。
まさか、こんな手の込んだことをしてまで、僕に復しゅうする必要があるんだろうか。

「ひ、日野さん。冗談はやめてくださいよ。まさか、これが七不思議の七話目だ、なんていうんじゃないでしょうね? もう心臓に悪いからやめてください。ちゃんとおもしろい記事を書きますから。この縄をはずしてくださいよ。本当に痛いですよ」

僕は、努めて明るく笑って見せた。
けれど、その途端、日野さんたちの顔から笑みが消え失せた。
「お前、まだ気がつかないのか?
この集まりはな、お前のために開かれたものなんだよ。

別に、記事なんかどうだっていいのさ。新聞部で、そんな特集なんかやらないんだよ。今まで岩下や新堂が話した話は、みんな作り話なんだ。それに気づかないで、お前、まじめに聞いていたんだな。つくづく、頭が幸せな奴だぜ。

この集まりはな、学校の七不思議を特集するためのものではなく、お前に復しゅうするために催された特別の裁判なんだ」
みんな、真剣な顔をしている。
冗談じゃないのか?
まじめに、僕を裁判するというのか!?

「判決を申し渡す!」
日野さんが、右手をあげた。
そして……。
「死刑!!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議なし!」

全員が右手の拳を固めると、親指を突き出し、それをぐっと下に下げた。
ジ・エンドだ。
「冗談はやめてください!」
僕は暴れた。
もう少しで、手を縛りつける縄が解けそうだ……!

「例のものをここへ」
日野さんが、重々しく、岩下さんから何かを受け取る。
何だ?
すごく小さいものだ。
七人の陪審員と裁判官は、僕の縛られているテーブルをぐるりと囲んだ。

彼らの誰もが、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
僕は、改めて寒気を感じた。
これは冗談なんかじゃない。
「あぐっ!」

「動くんじゃねえよ」
新堂さんが、僕の口を押さえつける。
ほんの少し開いた口に、日野さんは何か固いものを滑り込ませた。

何だ……?
カプセル……?
んぐっ!
……飲み込んでしまった。
僕の喉が波打つのを確認して、日野さんたちは、とても満足そうだった。

「今飲んでもらったのは、毒だよ。……なあに、そんなに驚いた顔をしないでくれ。すぐに死にゃあしない。
カプセルに入っているからな。まあカプセルが胃液で溶けて、中の毒が出てきたらその時はアウトだな。
死ぬしかない。……そうだな。計算によると、お前が死ぬまで、あと五時間ってところか?」

日野さんは、得意顔だった。
「……じょ、冗談でしょ?」
僕の声は、とても情けなかったと思う。
もしこれが冗談だといってもらえれば、僕はきっとどんなことでもしただろう。

「嬉しいことに冗談じゃないんだ。
あと残された時間が五時間っていうのは、どんな気分だ? ゾクゾクするか? 冷汗が出るか? ウヒヒヒヒ……。楽しいなあ、坂上。でもこれでお前があきらめてしまったら俺たちは少しもおもしろくない。
お前には、死ぬまで精一杯生きてもらわなければならないんでね。だから、これを用意した」

日野さんは、ポケットの中から黄色い液体の入ったガラスの小瓶を取り出した。
「解毒剤のアンプルだ。これを時間内に飲めば、カプセルに入った毒が中和されるんだ。ほしいか?」
1.ほしい!
2.いらない!