学校であった怖い話
>七話目(荒井昭二)
>Q17

僕は、たまらずにタンスを力一杯叩いた。
すると、タンスの内側からもこちらを叩く音がする。
間違いなく、この中に何かいる。
僕は、ポケットの中に手を突っ込んだ。

あの日記帳に挟まっていた鍵だ。
あれがこのタンスの鍵に違いない。
僕が、鍵穴にそれを差し込むと、校長は、叫び声をあげながら僕に襲いかかってきた。
僕は、鍵を回し、タンスの扉を開けはなった。

そして……。
鈍い音が響き、校長のゴルフ・クラブはタンスの中のものに命中した。
「あ……あ……昭二、昭二」
校長は、タンスの中に目を釘付けにしたまま、わなわなと震えている……。
校長の手から、クラブが力なく落ちた。

クラブの先には、べっとりと赤い血がついていた。
タンスの中から、鼻が曲がりそうな異臭が漂ってくる。
僕は、そっとタンスの中を覗き込んだ。
「げえっ!」
僕は、そのあまりの臭いと光景に、胃の中のものを吐き散らした。

タンスの中には、いつも僕の側にいた人形のような物体がいた。
そして、その物体の頭は、クラブでたたき割られていた。
タンスの中にいた物体は、茶色い肌を黄緑色の粘膜で包み込み、カクカクと力なく小刻みに震えていた。

こいつは、生きているのだ。
茶色い肌と黄緑色の粘膜の間には、赤や青の幾本もの血管のようなものが張り巡らされており、かち割られた頭からは、どす黒い液体を弱々しく吐き出していた。
ふと辺りを見回すと、さっきまで僕の側にいた人形がいなくなっていた。

……そうか。
こいつが本体だったのか。
僕の側にいつもいた人形は、こいつの幻影に違いない。
そして、こいつはこの洋服ダンスの中で、毎年一人ずつ生けにえの魂を吸い取りながら成長し続けていたのだ。
何ということか。

「殺してやる!」
その時、校長が、僕につかみかかってきた。
「お前だ! お前が昭二を殺したんだ!」
……やめて。
殺される!

その時、不気味な声が響いた。
「わが契約は終了せり」
声が聞こえると同時に、校長は叫び声をあげた。
「ぎゃあっ!」

何が起こったのか、校長の胸が裂け、そこから赤い血が噴水のように噴き出した。
そしてその血は、あろうことか空中の一点に吸い込まれていくではないか。

「……わ、私じゃない。い……生けにえは、……こっち……」
校長は、力なく僕のほうを指さしたが、もはやどうなるものでもなかった。

まるで早回しの映画を見ているように、校長の顔は血の気が失せ、全身がミイラのようにやせ細っていった。
そして、あっという間に骨と皮だけになり、崩れ落ちた。
床に落ち、砕け散ると、もう死体も残らず、ただの砂山に変わり果てた。

……契約は終わった?
悪魔との契約のことか?
息苦しい。
僕の心臓は、口から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。
……終わった。
僕は助かったのだ。
人形の生けにえにならずにすんだのだ。

「ぎゃっ!」
その時。
僕は、突然後ろから首を絞められた。
何だ、いったい!?

無理やり首をねじ曲げ、肩越しに後ろを見ると、頭の割れた人形が、僕の首を絞めていた。
人形の顔は、荒井昭二に似てなくもなかった。
……なんということだ。
契約が終わったということは、こいつが生き返るということか!

そいつは、歯のふぞろいの口からボコボコと血の泡を吹き、焦点の合わない目でケタケタと笑った。
「ア、ソ、ボ……、ア、ソ、ボ……」
人形とは思えない力だ。
とても振りほどけそうにない。
どうする!
僕はこのまま死んでしまうのか?

せっかく、身体の中に生きる力があふれてきたというのに……。
1.人形の割れた頭の中に手を突っ込む
2.人形の首を引き抜く
3.日記帳を破る
4.校長のなれの果ての砂を人形にぶつける