学校であった怖い話
>七話目(岩下明美)
>T2

僕は遠慮なくいただくことにした。
みんな、思い思いのものを手に取る。
僕は、その中からウーロン茶を選んだ。
甘いのが苦手な僕は、果汁百パーセントといえどジュースはあまり飲めない。
やっぱり、のどが渇いたときはお茶に限る。

本当は熱い日本茶がいいのだが、日野先輩がおごってくれるならゼイタクはいえない。
ウーロン茶には、色々な種類がある。
そのウーロン茶は鉄観音でもプアールでもなく、日本ではめずらしいポーレイ茶というお茶だった。
ウーロン茶とは思えない、きれいな紅色をしている。

僕は、そのポーレイ茶を一気に飲んだ。
……んー、うまい。
後味にちょっとクセがあるが、けっこういける。
後で日野先輩に、このお茶のメーカーを聞いておこう。

今まで怖い話をしてきたので、なんとなく気持ちがどんよりとして、自分が別の世界にいるような気がしていた。
しかし、この冷たいウーロン茶のおかげで、ちょっと現実に引き戻された。

みんなが、あらかた飲み終えると、日野さんは身を乗り出した。
ようやく、最後の話をしてくれるようだ。
みんな、構える。
……そういえば、日野さんて、怖い話が好きなんだろうか。

あまりそういう話を聞いたことはないが、人は見かけによらないし。
それが、僕の表情に出てしまったんだろうか。
日野さんは、チラリと僕を見ると、ニヤリと笑った。
まるで、安心しろといいたそうに。

僕は、何だか心を読まれたようで気恥しくなり、目を伏せた。
……もう、みんな話し終わったんだな?
みんな、取っておきの話をしてくれたか?
みんなを呼んだのは、俺なんだからさ。

最高に怖い話をしてくれないと、坂上に笑われちまうし、いい記事にならないからな。
ま、みんなのことだから間違いないと思うけどさ。
それで、俺も負けず劣らずの最高の話を仕入れてきたよ。
期待して聞いてくれ。

……みんな、理科の白井先生のこと、知ってるよな。
若いのに髪が真っ白で、白髪鬼のあだ名がある、あの白井先生な。
一年の連中は、まだ白井の授業は受けてないからわからないかもしれんが見たことぐらいあるだろう。
一度見たら、絶対に忘れんぜ。

あの、痩せすぎで骨のような顔に鋭い切れ長のつり上がった目をした、白髪の中年さ。
いつも染みだらけの白衣を着ていてな。
十年くらい前から、この学校で、教師をしている。
みんなも知っていると思うが、あの先生にはいろんな噂があるんだ。

まあ噂が立つのもわかるけれどな。
ただ容姿があやしいだけじゃない。
行動もあやしいしな。
何てったって、科学準備室の中に科学部や生物部の部員でも入ることの許されない倉庫があるぐらいだからな。

そこには、頑丈な錠前がかかっていて、入ることができるのは、白井だけ。
ほかの先生だって、入れないって噂らしいぜ。
以前、誰かが入ろうとしたら、ものすごい剣幕で怒ったっていうからな。
文句さえいえない。

白井は、教壇に立つとき以外は、いつもあの倉庫に閉じこもっていて、何か得体の知れない実験をしているらしい。
だから、変な噂がたって当たり前さ。
でもな、何でも学会ではかなり有名な人物らしい。

かなり革新的なレポートをいくつも発表していて、末はノーベル賞間違いなしともいわれているそうだ。
だから、そういう偉い先生に、多少あやしい雰囲気があろうとも学校側としては黙認するしかないわけさ。
もっとも、それだけすごい先生が、どうしてこんな高校の教師をしているんだか、謎だけどな。

坂上、お前その白井が倉庫でどんなことをしているか、興味あるだろ?
1.興味ある
2.興味ない