学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>A1

ちょっと待って。
私が四話目を話すんだったら、わざわざ新聞部まで戻ることはないわ。
私が話そうと思っていたのも、この桜の木の話だから。

……私の名前は岩下明美。
三年生よ。
それにしても、福沢さんが三話目に桜の木の話をしようとしたときはドキリとしたわ。まさか、一年のあなたが、この桜の木にまつわる話を知っているなんて、信じられなかったから。

だって、この話は、極一部の人だけが知っている伝説だったんですもの。
……でも、よかった。
福沢さんの話が嘘で。
いったい、どこからこの桜の木の話を聞いたのかしら?

確かに、一部は当たっているかもしれないけれど、どういう聞き方をしたら、あんな作り話ができるのかしら?
福沢さんて、作家の才能があるんじゃなくて?
それとも、詐欺師かしら?

……怒らないでちょうだいね。
私は、真実を言っているだけなんだから。
戦時中に、ここが死体置き場になっていたですって?
この桜の木が、恐ろしい光景を見させられ続けていたですって?

戦時中に、生きていた人を、そのまま死体と一緒に捨てた?
馬鹿らしいにも程があるわ。
それに、もしそれが本当だとしてもそれ以上に恐ろしい光景は山ほどあるじゃないの。なんせ、この桜は樹齢千年以上と言われているわ。

そのことに関しては、私も認めましょう。
この辺りはね、戦国時代に大きな合戦があったことで有名なのよ。
あなた、歴史は勉強した?
戦国時代、ろくに食べ物もない人たちが何を食べて暮らしていたか知っている?

……あえて、私は言わないけれど。
そして、彼らが、どんな生活を強いられていたか知っている?
死んだ武将たちの鎧甲をはいで、それをわずかなお金に替えたり、頭の皮をはいで、その髪を売ったり、生き延びた落ち武者を追い詰めて、よってたかって暴行を加えたり……。

それは夢幻だったのかしら。
あのころの累々たる死体の山は、この桜が育つための養分を十分に与えたんじゃないかしら。
うふふ……。
そんなことを言っていたら、日本中にある木々は呪われてなくちゃならないわ。

お花見なんてできないわね。
森に入るたびに、人が死ななくちゃならないわ。
確かに、この桜には怨念が込められている。
しかも、たくさんの怨念がね。
でも、それは戦時中に死んでいった兵隊たちのものでも、戦国時代に死んでいった武将たちのものでもないわ。

もっと、別なもの……。
もっと、普通に生活をしていた人たちの、強くて邪悪なこの世への執着心が作り出した怨念なの。
坂上君?
あなたが、さっき見たものは、その怨念なのよ。

戦時中に死んだ兵隊たちのものじゃないの。
これから、私が真実を話してあげるわ。
この桜に取りついた本当の怨念の話を。
その代わり、私と約束してくれる?

最後までちゃんとこの話を聞くこと。
そして、何があっても私の話が終わるまで、ここから動かないでちょうだい。
いいわね?
約束できるかしら?
1.約束できる
2.約束できない


◆「1.約束できる」を選んだ後、スタートボタンを押した場合
(→話を中断する)