学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>A5

そうよね。
誰だって興味を示すと思うわ。
興味がないと答える人は、うそつき。
私は、うそつきが大嫌い。
正直な人が好きなの。

この桜はね、昔はカップルたちの集いの場だったのよ。
もう、何十年も前の話。
当時はまだ、純朴な高校生ばかりでね。
手を握ることさえ恥ずかしい人たちだったの。
キスをするなんて、一大決心が必要だったのよ。

そして、この桜の木の下で口づけをし、愛を誓い合ったカップルは永遠に結ばれると言われてたの。
そのころはまだ、首吊り桜なんて忌まわしいあだ名はなかったわ。
愛し合う二人を結ぶ幸福のシンボルだったのね。

当時、広岡邦夫と折原初子というカップルがいたの。
この二人も、桜の木の下の伝説を信じ、いつか二人で口づけをし、永遠の愛で結ばれることを夢見ていたわ。
でもね、そういう伝説っていい話ばかりじゃないのよね。

悪い話もあったのよ。
もし、愛し合う二人が口づけをする瞬間を、誰かほかの人に見られたら、その二人は悲惨な結末を迎えると言われてたの。
だから、なかなかその伝説を実行できるカップルはいなかったわ。

誰かに言えばおもしろがって見に来るし、言わなければ言わないで、偶然に見られてしまう可能性もある。
うまくできてるものよね。
そう簡単に永遠の愛で結ばれたら伝説のありがたみがなくなってしまうもの。

だからね、その伝説を確かめあった二人というのは、まず噂でも聞かなかったわ。
本当は、たくさんいたのかもしれないけれど。
みんな純真だったから、恥ずかしがって言わなかったし、もし言って別れでもしたら、それこそいい笑い者でしょ?

そういう秘密はね、二人だけで取っておくものだったのよ。
だから、広岡さんと折原さんも誰にも告げずに、その時が来るのを待っていたの。
当時は、そういう告白をするのは、男の役目だったわ。

今はだらしない男が多いから、女性のほうが強いみたいだけど。
桜の花が咲くころ、広岡さんは、ついに決心したわ。
満開の桜の下で、伝説の儀式を行うことをね。

「……折原さん。もしよければ、僕と二人きりで、あの桜の花の下に行きませんか?」
二人でそこへ行くという言葉が何を意味するか、わかってもらえるわよね。
折原さんは頬を赤らめて、こくんと小さくうなずいたわ。

その時の広岡さんの喜びがどんなものだったか。
私には手に取るようにわかるわ。
それで、聞いたの。

「いつがいいですか?」
折原さんは、なんて答えたと思う?
1.今度の満月の晩
2.明日の朝早く
3.おまかせします