学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>K6

「じゃあ、桜の満開には少し早いですが、明日の朝早く……六時にしましょう。裏門で待っています」
広岡さんは、それだけ告げるとさっさと向こうに行ってしまったの。
あっさりしてるって?

折原さんには、彼の唇のふるえや、歩き方のぎこちなさやを見ていただけで、どんなに緊張しているかよくわかったの。
おまけに、緊張のあまり足をもつらせ、廊下の向こうで彼がこけたのもしっかり見ていたのよ。

そんな彼を見ているだけで、彼女は幸せな気分になれたの。
その日は、とうとう二人とも緊張して眠ることさえできなかったわ。
そして、次の朝……。

朝早くから、雨が降っていたのよ。
二人は、晴れることを祈っていたけれどいっこうに雨はやみそうにない……。
見かねた広岡さんが折原さんに、電話をかけたのよ。

そんな朝早くから、起きているのは家中で彼女らくらいなものだったので、すぐに彼女は電話に出たわ。
「今日は、雨が降っているから、今度にしましょう。詳しいことはまた学校で……」

そういって彼は電話を置いたの。
二人の愛の儀式は、できれば天気がいいほうがいいに決まっているわよね。
ふふふ。
いい思い出として残しておくには、ベストコンディションで臨みたいものよ。

そして、彼はあらためて学校で彼女に聞いたわ。
そして、彼女はこういったのよ。

「今度の満月の晩、ちょうどあの桜の花が満開になるころだと思います。その時に……」
二人は手を握りあい、見つめあった。
それ以上の言葉はいらないの。
恋をしたことのない人にはわからないでしょうけど。
あなたには、わかるかしら?

……それで、ついに満月の晩がやってきたの。
日が一日一日と近づくにつれ、二人の心は高鳴り、ときめいたわ。
今日のその夜だという日は、昼間に目があっても、恥ずかしくて思わず目をそらすほどだった。

満月の晩の夜十時、二人は学校の裏門で待ち合わせたの。
人気のない静かな晩だった。
もちろん、二人とも家からこっそりと抜け出してきたのよ。
家の人に本当のことを言ったら、絶対に許してもらえないものね。

「待ちましたか?」
「いいえ、今来たところです」
二人は、絶対に来てくれるとお互いに信じながらも、裏門に来るまでは不安だったのよ。

互いの姿を見つけると、どちらからともなく駆け寄って、手を取り合ったわ。
そして、一緒にうなずいた。
それは、二人の決意を確かめるための合図。
そして、夜の旧校舎の脇を通り、あの桜の下へと向かったの。

二人はね、握り合う手が汗ばんでくるのがよくわかったわ。
意識しないつもりでも、自分の心臓の鼓動がはっきりと聞こえてくる。
そして、相手の鼓動までも。

桜の木が月に照らされシルエットを映し出したとき、二人はそのあまりの美しさに固唾をのんだの。
本当に幻想的な風景だったわ。
けれど、そのとき二人は見てはいけないものまで見てしまったの。
何と、桜の木の下には、先客がいたのよ。

それも、口づけを交わしている瞬間だった。
あの伝説が本当なら、この二人には不幸が訪れてしまう。
二人は、見てはいけないものを見てしまったのよ。
「あっ!」
そして、思わず叫んでしまったわ。

桜の木のシルエットに紛れて寄り添っていた二人は、思わず互いの唇を離したわ。
そして、辺りを見回した。
広岡さんと折原さんは、ぎゅっと強く手を握りあった。
このままでは見つかってしまう。

二人は、どうしたと思う?
1.逃げた
2.事情を説明するために出ていった