学校であった怖い話
>七話目(風間・岩下)
>Q6

……みんなの前で元木さんを傷つけるわけにはいかない。
とりあえずこういっておけば、後でなんとでもいえるし。
元木さんてちょっと危険な感じがするけど、こう見ると、なかなかどうしてかわいい子だ。

もし、つきあうことになったとしても、けっこういけるかもしれない。
ここは、彼女の顔を立ててあげるとしよう。
「ああ、わかったよ。僕でよければ」

僕がそういうと、周りから歓声が上がった。
「すごいじゃん、坂上君! 早苗ちゃんと結婚するんだ。結婚式には呼んでね!」
福沢さんが、けらけら笑っている。

「いやあ、すごいもの見せてもらっちゃったなあ。怖い話をしに来たつもりだったのに、何だかめったに見れない、いいものを見せてもらっちゃって。困ったなあ……」
細田さんが、頭をかいて照れている。
まるで、自分が愛の告白をされたつもりでいる。

「人生を早く決めるのは、いいことだよ。君みたいな一般庶民は、早いうちの人生設計が大事だからね。
僕も、応援するよ。似合いの夫婦だ、あっはっはっはっは……」

風間さんは、他人事だと思って好き勝手いっている。
新堂さんは、ただニヤついているだけだ。
岩下さんと荒井さんは、興味なさそうにうつむいたまま。

「それじゃあ、話すね」
そういい、元木さんは座り直した。
今まで笑っていた連中も、波が引くように静かになった。
……皆さん、初めまして。
もう、玲子ちゃんの話で私のこと知っているかもしれないけれど、とりあえず自己紹介します。

私は一年の元木早苗といいます。
七人目が来る前に、私が最後の話をしますね。
これは、私のおばあちゃんから聞いた話なの。
私のおばあちゃんは、私の中に住んでいるんだけれど、とってもいろんなことを知っているのよ。

時々、私の身体から抜け出てっちゃうの。
それでね、いろんなものを見てくるんだよ。
これはそのおばあちゃんが見た話。
つい、最近に起こった話なんだよ。

神田拓郎って人が、この学校の生徒にいたの。
神田さんには、彼女がいてね。
彼女は、とっても嫉妬深かったの。
それで神田さんを縛りつけてたの。
毎晩電話をして、家にいるかどうかを確かめたり、今日一日、何をしていたのか問いただしたりするんだよ。

女の子が側に近づいただけで、しつこく問いつめたり、ヒステリー起こして異常に怒ったり。
神田さんは、そんな彼女が怖くなっちゃったの。
それで、別れたいと思うようになったの。

そんなとき、神田さんのことを好きだという女の子が現れたのよ。
それで、その女の子は、神田さんに近づくようになったの。
もちろん、嫉妬深い彼女は、それを知ってものすごく怒ったよ。
でも、神田さんは、目を盗んでつき合うようになっちゃったんだ。

けどさ、その女の子に片思いしている人がいてね。
彼は、神田さんをとても憎らしく思ったわ。
……それから何日かして、神田さん死んじゃった。

線路で死んだの。
線路を枕代わりにして、睡眠薬を飲んでそのまま眠っちゃったの。
そこに電車がやってきて、車輪に頭を引かれて、死んじゃったのよ。
頭はもうグシャグシャに潰れちゃって、復元できなかったって。
自殺ということで片付いたけれどそれが真実かどうかはわからない。
……怖い話だよねぇ。

これで、私の話は終わりだよ。
ご苦労さまでした。
「つまんねえーーっ!」

元木さんの話が終わると同時に、そう叫んだのは新堂さんだった。
岩下さんは、鼻で笑っていた。
……確かに、今まで聞いた話に比べれば、あまり話に的を得ず、決しておもしろいとは思えない。

……もっとも、風間さんの話に比べれば、十分怖い話ではあるけれど。
でも、今の話と、僕が助かるという話とどこが関係あるんだろう。
もしかしたら、元木さんの冗談にはめられたのかもしれない。

「ねえ、坂上君」
元木さんは、ぼんやりしている僕の手を取ると、いきなり握りしめた。
僕は、真っ赤になってしまった。

「……ねえ、坂上君。神田さんが死んだのって、自殺だと思う? それとも、他殺だと思う? もし他殺だったら、犯人は誰かしら?」
元木さんは、なぜそんなことを僕に聞くのだろう?

そんなことを聞いて、何の意味がある?
1.自殺
2.ヒステリーな彼女が殺した
3.神田さんをひそかに想っていた女の子
4.その女の子に片想いしていた男
5.その他の誰か