学校であった怖い話
>七話目(風間・岩下)
>A7

「僕は他殺なんかじゃないと思う。
やっぱり自殺なんじゃないかな。自分を取り巻く人間関係に疲れたんだと思うよ。どろどろしてたんだよ。衝動的に現実から逃げ出したくなったんじゃないかな。もし、自殺だとしたら彼は早まったと思うけどね」

僕が答えると、元木さんは合点のいかない顔つきでじっとこちらを見ている。

「そう。坂上君は、そう思うんだ。でもね、自殺っていうのは、なんにもなくてするもんじゃないわ。必ず原因があるわけでしょ? その原因ていうのは、ほとんどが人間関係のようなものじゃない? もう、直接手をくださない殺人みたいなもんだと思うよ。

だから、神田君が死んだのも自殺という名の殺人みたいなものよ。
私は他殺だと思うわ。あっ、気にしないで……、別に大した意味はないの。私のおばあちゃんも、どうして彼が死んでしまったのかは教えてくれないもの。でもね、もうすぐ七人目がやってくるわ。七人目は、誰だと思う? ……そう、神田君よ。神田君がやってくるの」

「馬鹿いってんじゃねえぞ! どうしてあいつがやってくんだよっ!」
突然、新堂さんが声を荒だてた。

「……あら? 新堂さんて、神田さんのこと知ってるんですか?」
元木さんは、本当なのかそれとも演技なのか、かなり大げさに驚いてみせた。
新堂さんは、ちょっと気まずそうだった。

「……まあ、そりゃあ、知らない仲じゃないさ。俺と同じクラスだったからな。でも、俺はただ知っている程度の仲さ。神田のことだったら、俺よりも岩下の方が詳しいんじゃないのか? 岩下は神田とつき合っているって噂だったからな」

え?
僕は、思わずドキリとして岩下さんに目を向けた。
岩下さんは、うつむいたまま笑っていた。

「……さあ、どうかしら。新堂さんもあまり人の噂とか簡単に信じない方がいいと思うわよ。あなた、見たの? 私と神田に何かあったところを見たのかしら? 見てもいないくせに、変な噂は立てない方が身のためよ。

私、嘘つきは大嫌いなんだから。もし、私が本当に神田という男とつき合っていたとしたら、私はきっとその男のことを殺したいと思ったでしょうね。……それより、福沢さんだったかしら? あなた、神田のことひそかに想っていたそうよね。

最近、神田が新しい女とつき合い始めたって話を聞いたけれど。もっとも、これも噂にしか過ぎないけれど。確か、名前は福沢玲子……」
「何いってるのよ!」
岩下さんの言葉を遮り、福沢さんが机を強くたたいた。

「あんた、先輩だからっていっていいことと悪いことがあるわよ。私のせいで、神田さんが自殺したっていうの? 確かに、私が神田さんのこと好きだったのは認めるわよ。
でも、ほかに原因は絶対あったはずだわ。

私が、その原因だとでもいうの?
彼が死んで一番悲しかったのは私なのに! そんなこといって……、私は知ってるもの! 自分の罪を人になすりつけようなんて、とんでもないやつ!

神田さんは自殺なんかじゃない。
お前が、彼を殺したんだ!」

僕は、ただただ呆気にとられた。
福沢さんが、ものすごい形相で岩下さんのことを睨みつけている。
しかし、それを受け止める岩下さんもまた、負けていない。

「……証拠は? あんた、私が殺したっていうんだったら、証拠を見せてみなさいな。へたなこというと、あんたのこと、殺してもいいのよ」
二人の睨み合いが続いた。
僕は、どうしていいかわからない。
間に入ったのは、細田さんだった。

「まあまあ、二人ともそんなに怒らないでくださいよ。みんな、変な想像をするのはやめましょう。誰が殺したとしても、ここでは関係のないことじゃないですか。
そんなこと言い合って何になるっていうんです? みんなで仲よくしましょうよ。ね?」

二人は、細田さんの言葉には耳も貸さなかった。
お互い、黙って睨み合いを続けている。
その時、荒井さんが咳払いをした。

「ごほっ。私、その話よく知らないんですけど、何だか複雑そうですね。
……細田さんて、福沢さんのこと好きなんじゃないですか?これは、あくまでも想像ですけどね。あなたここに来てからずっとチラチラと福沢さんのこと見てたでしょ?
何かあるんじゃないですか?」
荒井さんは、探るような目で細田さんを見た。

「いやっはっはっは、ばれちゃったかな? 実は、僕、一年に僕好みの子が来たなあなんて、ずっと福沢さんのこと見てたんだよね。もっとも、片思いだけど……。まさか、今日こうして一緒に話ができるなんて思ってもみなかったよ。いや、恥ずかしいなあ」
細田さんは、大きな体を折りまげ、息を殺しながら笑っている。

風間さんが、席を立った。
「……馬鹿らしい。多かれ少なかれ神田に関係のある奴ばかりじゃないの。こりゃ、日野が仕組んだ罠だろ? あいつ、神田と仲がよかったからね。もうこれ以上、茶番につき合ってられないから。僕は帰るからね。あとは君たちで探偵ごっこでもしてなよ」

風間さんの手が、ドアのノブにかかったとき。
「待って!」
元木さんが、叫んだ。
「私、七人目が来るっていったでしょ? それまでは帰っちゃダメ」
元木さんの話を聞いて、風間さんはわざとらしくため息を漏らした。

「はぁーーー。君ね、僕の何なわけ?
今日、初対面でしょ? おばあちゃんが身体の中に住んでるとか、おじいちゃんの声が聞こえるとか、君、かなり危ないよ。僕はね、忙しいんだ。君たち一般庶民とは違うの。悪いけれど、僕の自由にさせてもらうよ」

「ダメ! 今、ドアを開けたら殺されるわよ。
もう、神田さんは来てるんだから。
そして、その扉の向こうに立ってるんだから」
元木さんは、強く戒め、部室のドアを指さした。

風間さんが、いわれてドアに目を向けた。
まるで、ドアの向こう側を透視でもしようとしているのか、眉間にしわを寄せて目を凝らしている。
……でも、そんな馬鹿な。

いくらなんでも、死んだ人間がこんなところにのこのこやってくるわけがない。

「ねえ、坂上君。あなた、私の話、信じてくれる? それとも、変な子だと思ってるのかな、やっぱり」
いきなり、元木さんがそんなことを聞いてきた。
1.信じているよ
2.いくら何でも、信じられないよ
3.やっぱり結婚は考え直そう。君はおかしい