晦−つきこもり
>一話目(前田和子)
>J7

そうよね、ひどいわよね。
「よくも! よくも伊佐男さんを……!!」
舞は、石をつかむと平太におどりかかったの。
赤い着物をひるがえして。
彼の頭めがけて、石を振り降ろそうと。
「や、やめろ!」
平太は抵抗してね。

よけるもんだから、顔や腕に石があたって、あちこちが血だらけになって。
でも、舞はとり押さえられたのよ。
平太の力にはかなわなくて。
ああもう、嫌だわね。
こういう時には、グサッと復讐したって話の方がスッとするわよね。

でも、平太は舞を取り押さえて、偉そうにいったわけ。
「舞、こんなことをしたら、お前まで罪人になるんだぞ」
なんてね。
つくづく嫌な奴よ。
まあ、結局舞は罪を問われなかったんだけれど。

だってねえ……赤ちゃんが、おなかの中にいたんだもの。
舞は泣く泣くこう語ったの。
伊佐男が川に折り紙の船を流していたのは、これから生まれる子供の無事を祈る為だったんじゃないかって。
願いごとを書いたタンザクを、川に流すといっていたからって。

村が違えば習慣も違うわよね。
伊佐男は、ちょっとした誤解で命を落としてしまったのよ。
平太はそれを知って、舞まで裁くことはしなかったわけ。
伊佐男の眉間を打った石は、平太によってお寺におさめられた。

舞は、毎日お寺に通ったわ。
隙あらば、石を盗もうとしているかのようだった。
でも、結局石は手に入らなくてね。
彼女はそのうち村を離れ、どこかに行ってしまったの。

そして、しばらく後。
いつしかこの村の川には、赤い着物を着て、赤子を背おった女の霊が出るようになったんだって。
拳を、石のようにかたく握りしめて。
「次は誰を打ちましょか……」
って、つぶやくみたいよ。

それ以来、この村では折り紙の弔いは行われなくなったの。
もちろん、罪人を石で打つこともなくなったわよ。
折り紙の弔いをしようとすると、舞の霊が現れたそうだから。

……ねえ。
私がなんで、こんな話をしたかわかる?
実は、うちにあるのよ。
伊佐男を打った石が。
その石をおさめたお寺って、うちのご先祖らしいのよ。

そのころお寺にあった仏像とかは、いろいろなルートで他の場所や人の元に渡ってしまったらしいんだけど。
なぜか伊佐男の石だけは、うちにあるの。
もしかしたら、誰か処分しようとした人はいたのかもしれない。

でも、今だに石だけはここにあるの。
それも、この客間にある仏壇に。
信じられない?
それなら、仏壇の中を捜してみる?
1.捜す
2.やめておく