晦−つきこもり
>一話目(前田和子)
>Q4

うーん。
家族よ、家族。
死刑になった罪人の家族が、折り紙の船を流していたの。
まあ、家族にとっては弔いの儀式になるわよね。
他人が、どう思おうとね。

……昔、伊佐男と舞って夫婦がいたんだって。
伊佐男は他の村からやって来た流れ者。
舞は若くして親兄妹をなくし、一人で今にも壊れそうな家で暮らしていた村の女だった。
そして村人は、伊佐男のことをあまりよくは思ってなかったの。

「あいつはどこから来たのかわからない」
「得体の知れない奴だ」
なんていってね。
「舞は伊佐男にだまされてんだ」
「あの男、いつもニヤニヤしててよ、何考えてるんだかわかんねえぞ」
「変なことでもたくらんでんじゃないか?」

伊佐男は、愛想のいい男だったんだけど。
それが裏目にでたのね。
「伊佐男の奴、悪さでもしなきゃいいけどな」
「舞と二人っきりで暮らしてるんだろ? 見張る奴がいないじゃないか」
「危ないな。あいつには気をつけてなきゃ」

村の噂なんて、そんなもんよ。
よそ者には冷たいわけ。
だから伊佐男は、村で仲間はずれにされていてね。
なかなか仕事にありつけなかったの。
それで毎日、別の土地に働きにでていたんだけど。
「伊佐男の奴、どこで働いているんだ?」

みんな、口々に噂しあったわ。
何でも知っていないと気がすまないのね、そういう人たちは。
まあ、わかるけどね。
当時は村全体が家族のように干渉しあっていたんだから。
伊佐男に、あれやこれやといろんな噂がたったわ。

「あいつ、隣村で盗みを働いているんじゃないか?」
「出かけても、ブラブラ遊んでるだけかもしんねえぞ。舞だけ働かせて」
みんな、好き勝手にいいあっていた。
でも、二人は仲良く暮らしていたの。

舞は色白な女でね。
ちょっと不健康に見えるくらい、青白い肌をしていた。
だからいつも赤い着物を着て、見た目をよくしようとしていたの。
いつもいつも、赤い着物を着てね。

でも、すごく器量よしだったのよ。
普段は青白い顔をしていても、祭りの日に紅なんかさすとたいそう艶めかしかったって。

…ところで葉子ちゃん。
ちょっと見ないうちに大人っぽくなったわね。
恋でもしてるの?
1.えっ
2.うーん
3.ヒヤッ
4.………