晦−つきこもり
>一話目(前田和子)
>P5

あら、黙りこんじゃって。
一体、誰のことを考えてるの?
まさか、私の知ってる人だったりして……。
あら。
ごめんなさい、怖い話だったわよね。
話を戻すわ。

えーと、舞は色白だった、ってとこまで話したのよね。
だからね、彼女はかよわい女に見られがちだったんだけど。
実はそうでもなかったのよ。
舞って、すごく気が強かったの。
伊佐男が現れるまでは、一人で生活してきたんだもの。
強くもなるわよね。

村人がどんなに伊佐男を悪くいおうと、とりあわなかったし。
伊佐男のことで、村人と口論になることもよくあった。
これじゃあ、村の者は面白くないわよね。
舞のことを好きだった男なんか特にね。

……ある日、伊佐男が折り紙の船を川に流している所に、平太という村人が通りかかったの。
平太は、舞の幼なじみでね。
彼女のことをずっと好きだったから、伊佐男のことは特に悪く思っていた。
体が大きくて乱暴者の平太を、舞は嫌っていたけどね。

「何してるんだ」
平太は、不審な目をして伊佐男をなじったの。
「……何でもねえ」
伊佐男は、そういったきり何も語らなかった。
「怪しいな。ちょっとこい!」
この村では、折り紙の船って大切な儀式に使われていたんだもの。

子供さえ遊びでも作ったりしなかったのよ。
これは何かあるって、平太は思ったの。
平太は伊佐男を無理矢理役場へ連れて行こうとしたのよ。
「やめろ! 何すんだ!!」
伊佐男は、平太が何でこんな態度にでるのかよくわからなくてね。

ずいぶん嫌われたもんだと思いながら、その場を逃げたの。
「あいつ、逃げやがった。折り紙の船なんか流して。まさか……人殺しでもしたんじゃないだろうな」
平太は、みんなにそのことをふれまわったの。

びっくりしたのは舞よ。
平太のいうことをそのまま信じたわけじゃないけれど、折り紙の船を流すなんて、何かがあると思ってね。
「でも、伊佐男さんが人殺しなんてありえない……あ、もしかしたら伊佐男さんは……」
舞は、伊佐男が川で何をしていたのか、大体の予想がついたの。

それで、伊佐男と話をしようと待っていたんだけど。
彼は、なかなか帰ってこなかったの。
「……ただいま」
伊佐男が帰ってきたのは、深夜になってからだった。
あちこちで村人に追いかけられたから、なかなか家に帰れずにいたのよ。

「ただいま。……あれ? 舞?」
部屋の中はしんとしていた。

いつも舞が粥を煮ているいろりに、火がちろちろ燃えているだけ。
「舞はどこにいるんだろう。
火をつけっぱなしにして……」
1.トイレを捜す
2.寝所を捜す