晦−つきこもり
>一話目(山崎哲夫)
>G6

ああ、そう。
それならいいんだけど……。
谷村君はね、よくわからなかったんだ。
そのおじさんのいっている意味がな。
谷村君達は、このおじさんは頭がおかしいんじゃないのかと思った。

それで、この人たちを無視して先に進むことにしたんだ。
「なんだったんだ? あの変なおじさんは……」
「なんか、わけの分からないことをいっていたな」
「次元の狭間……だったっけ?」
谷村君達は、そんなことを話しながら、歩いていったんだ。

しばらく登っていると、また年をとった人に追いついてしまった。
その人たちは、あのおじさんのグループだった。
彼らは、呆然と立ちつくした。
そのおじさんは、にこにことしながら、谷村君に話しかけてきた。

「ほら、これで意味が分かっただろう。ここは、閉じた空間だ。ここからでることはできないのさ」
谷村君は、そのおじさんがいっていたことを、なんとなく理解することができた。

(僕たちは、山の中腹に閉じこめられていて、頂上まで進むと、また下の方まで戻ってしまうんだ……)
「ここから出る方法はないんですか……」
谷村君は、そのおじさんに聞いてみた。

「それがわかっているんなら、私達がこんな所にいやしないよ」
確かにその通りだよな。
「おじさん達は、どのくらいここにいるんですか?」
「そうだな。ここは、日が沈むこともないところだからな。どのくらいここにいるのか、正確にはわからないが……。

私達が、ここに来たときは、ちょうど君たちぐらいの年齢だったよ」
谷村君は、絶望感におそわれたよ。
もう、ここからでることができないと決まったようなものだからな。
「でも、安心しなさい。ここでは、おなかも減らないし、眠くもならない。

ただ、好きなだけ登り続ければいいんだ。こんな幸せなことはないね」
(冗談じゃない! 頂上にたどり着くことのできない登山なんて、なにがおもしろいんだ……)
谷村君は、そう思った。

それを聞いた女の子達は、ついに泣き出してしまった。
わんわんと大きな声でな。
するとな、その優しそうな顔をしたおじさんがいったんだ。
「ククク……。やっぱり、女の子が来ると楽しくなるな。
久しぶりに、楽しい時間が過ごせそうだ」

谷村君は、そのおじさんを見てみた。
すると、そのおじさんの顔は、さっきまでの優しそうな顔とはうって変わって、まるで鬼のような恐ろしい顔になっていたんだ。
谷村君は、本能的にこの人は危ないと感じ取った。

おじさんは、ゆっくりと腰のあたりに手を回した。
その手には、登山ナイフが握られていた。
「正直いってね。こんな所に閉じこめられていると、こんなことしか楽しみがなくなるんだよ。泣き叫ぶ者を、切り刻むことぐらいしかね……」

そういうと、谷村君に向けて、ナイフをつきだしてきたんだ。
「うわっ」
谷村君は、紙一重のところで、何とか避けることができた。
「逃げよう!」
谷村君達は、山のふもとに向かって走り出したんだ。

後ろを見ると、恐ろしい顔をしたあのおじさん達が、ナイフを振りかざして追いかけてきている。
谷村君達は、懸命に走ったよ。
でもな、石がゴロゴロしている山道だ。
そう思ったとおりに走れるわけがない。

気を抜くと、今にも転びそうになる。
肩にはザックの肩ひもがしっかりと食い込み、走るたびに体を締め付けていった。
谷村君達は、そんな状況の中で、必死になって逃げていった。
後ろを振り向くと、そのおじさん達は、もう見えなくなっていた。

でも、それでも谷村君達は、走るのをやめなかった。
いつ追いつかれるかと思うと、不安でたまらなかったからだ。
しかし、それが災いした。
ふと見ると、今度は、そのおじさん達が前から走ってきていたんだ!

谷村君達がいるのは、閉じた空間だ。
下に下りすぎて、上の方に出てしまったんだ。
谷村君達は、急いで止まろうとしたが、疲れ切った足では踏ん張りがきかず、滑って転んでしまった。

その人たちは、もう、すぐそこまで来ている!
葉子ちゃん!
彼らは、どうしたと思う!?
1.急いで逃げた
2.襲いかかった
3.観念した