晦−つきこもり
>一話目(鈴木由香里)
>D8
当然だね。
もう、頭にきてるんだからさぁ。
彼女の手を離すと、私は一目散に駆け出したよ。
自分一人だけなら、こんなに簡単に逃げられたんだ。
っていうぐらいスムーズに、出口である倉庫のドアにたどり着いたわ。
背後は不気味なくらい静かで、松尾さんがどうしてるのか気になってても、振り返れなかった。
エレベーターホールには、私たちの乗って来たエレベーターが、止まっていたわ。
ドアが開いている!
あれに乗って逃げれば……!!
そう思った瞬間、
「きゃーーーーーーーー!!」
っていう、すさまじい悲鳴が!
私は、急いでエレベーターに飛び乗ると、ドアを閉じたの。
閉じられていくドアの向こうで、無数の手が泳ぐように宙を漂っているのが見えた。
エレベーターが動きだして、やっと、私は一息ついたわ。
松尾さんを残してきたことに、多少の罪悪感を感じたけれど、これもすべて、彼女の行動が引き起こした結果だと思えば、後悔もなかった。
エレベーターが、どこかのフロアで止まった。
ピンポーンという軽い音の後、ドアが開くと……、
そこには、誰も居なかった。
そこは、私たちが最初に作業していたフロアだったんだ。
エレベーターのドアは、まだ開いてる。
倉庫へ戻ろうか。
それとも、売り場の方へ戻った方がいいのか……。
葉子だったらどうすんのさ?
1.倉庫へ戻る
2.売り場へ戻る