晦−つきこもり
>一話目(藤村正美)
>A4

葉子ちゃんって、案外ふてぶてしいんですのね。
私はそんなこと、できませんわ。
だから、もちろん断りました。
でも、どうしてもといわれて……。
受けてしまいましたの。

しょうがありませんわよね。
あんなに頼まれて、それでも断れるほど、私は冷血漢ではありませんもの。
ええ、私は遺産を頂くことにしましたの。

それからすぐに、中山さんは亡くなりました。
そして、遺産が私の元に来たのです。
何だったと思います?
……両手に乗るくらいの、小さな箱だったんですのよ。

いいえ、金やプラチナでできているわけでも、宝石がはめ込んであるわけでも、ありませんわ。
中も空っぽでした。
それのどこが、遺産だと聞きたいのでしょう。
うふふ……空っぽだった、その中身に秘密があったのですわ。
私は箱をもらって、家に持ち帰りました。

アクセサリー入れにしようと思ったんです。
部屋のベッドに座って、フタを開けてみました。
すると……中に、金色のコインが入っているのです。
頂いたときは、確かに空っぽだったのに。
コインには、何の模様もありませんでしたわ。

だから、正確にいうと『コイン型の金属』ですわね。
不思議だと思って、次の日宝石店で調べてもらいましたの。
混じりっけのない、純金だといわれましたわ。
キツネにつままれたような気持ちって、ああいうことをいうんですのね。

しかも、家に帰って箱を開けると、また、新しい金のコインが入っているじゃありませんか。
その後も、一日に一個ずつ、箱の中にコインが現れるんです。
今の金相場って、知っています?
うふふ……私は、あっという間にお金持ちになってしまったんですわ。

やっぱり、親切ってしておくものですわね。
ああ、もちろん、そんなつもりでお世話したんじゃありませんけれど。
私のこと、うらやましいと思うかしら?
1.うらやましい
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