晦−つきこもり
>一話目(藤村正美)
>D4

けれど、そうしたら中山さんは、眉を寄せたんですわ。
「……そんなに大きな声を出すものじゃないよ」
まるで、ささやくような小さな声。
「お願いだから、知らない振りをしておくれ。私だけじゃなくて、あんたも危ないんだよ」

……そんなことをいい出すんですのよ。
この人は、どうかしてしまったのかしら?
私は、そう思いましたわ。
実際、もう少しで枕元のボタンを押して、鎮静剤を持ってきてもらうところでした。
でも、次の彼女のセリフが、私の動きを止めたんです。

「親族は、みんな私の財産を狙ってるのさ。助けてくれたら、あんたに遺産を残すよ」
怖がってはいるけれど、冷静な口調でした。
ひょっとしたら本当なのかも……って思わせるような。
ああ、いっておきますけれど、別に彼女の言葉につられたわけじゃありませんわよ。

彼女の遺産なんて、何とも思いませんでした。
そんな物、もらう筋合いはないですものね。
私は看護婦ですから、患者さんのお世話をするのは当然です。
それでお礼をもらおうなんて、考えてもいません。
看護婦って聖職ですもの。
わかってくれますわよね?

……とにかく、中山さんの言葉には真実味があったんです。
こんなとき、葉子ちゃんならどうするかしら?
彼女のいうことを、聞いてあげますか?
1.聞かない
2.聞く