晦−つきこもり
>二話目(鈴木由香里)
>A7

家の中?
部屋の中で、ママゴトしたり、人形で遊んだりしてたんだ。
女の子だもんね。
それに、保育園や幼稚園に通うようになるまでは、子供の行動範囲って、広くならないもんだって。
この、あっちゃんの世界も、家の中に限られてたよ。

幸い、家だけは大きかったからさ。
遊び場なんて、敷地内だけで充分だったし、どんなに目を離しても、庭より外に出るってことはなかったからね。
都会と違って、交通事故の心配も必要なかったし。

……ただし、これは全部、その家が普通の家だったら。
って、制限がつくんだ。
本当に、化け物屋敷だったんだから。
私は、一日のほとんどを、子供部屋で過ごしたよ。
とにかく、わがままな子でさぁ。

ちょっとでも気に入らないことがあると、すぐ泣くんだよ。
しかも、その泣き方が尋常じゃないんだって。
子供の泣き声って、とんでもなく耳障りじゃん。
もう、屋敷中に響き渡るような騒音だよ。

その度に、怒られるのは私なんだから、嫌になっちゃうよね。
しかも、あっちゃんの母親っていうのが、見栄っ張りのくせして、とんでもないドケチでさぁ。
バイト代を、どんどん削ってくんだよ。
契約違反だよね。

この私を、ただ同然で、こき使ってたんだから。
何であんな仕事、引き受けちゃったんだろ。
私には、ほんのちょっとの自由時間も、与えられなかったよ。
たとえ、あっちゃんが眠ってる間でも、私は、そばを離れることを許されなかったの。

あっちゃんは、午後三時ぐらいから約二時間、昼寝をするのが日課だったんだけどさぁ。
寝つきが悪くて、そのうえ、眠りが浅いんだって。
私がトイレに行こうとしただけでも、すぐ目を覚まして、ワアワア泣くんだから。

人間ってさぁ、大きくなるに連れて、睡眠時間が減ってくっていうじゃん。
普通、あっちゃんぐらいの年の子だったら、一日の半分以上、眠ってたっておかしくないはずだよ。
葉子の小さい時なんて、いったん眠ったら最後、朝までぐっすり。

叩いても、蹴飛ばしても、起きなかったぐらいなのに。
ねぇ?
1.そんなぁ……
2.そうだったかも……