晦−つきこもり
>二話目(藤村正美)
>A4
そうなの、お年頃ですものね。
それならば、わかるでしょう。
愛する者のために……と祈る気持ちの、純粋な美しさを。
真壁さんは、彼女めがけて、持ってきた荷物を投げました。
「河合さん、これを!」
乾いた音をたて、荷物が固い床に転がりました。
その拍子に、包みが解けて、きれいなパンプスが現れたのです。
ボルドー色の地に、黒いリボンタイのついた、おしゃれなパンプスでしたわ。
そしてその瞬間、ギプスから半透明の足が、音もなく抜け出したのです。
力が抜けて、河合さんは床の上に倒れてしまいました。
それでも、見たのですわ。
パンプスが浮かび上がり、足の霊が、そこにすべり込んだのを。
ふくらはぎから下しかない、パンプスを履いた一対の足。
不思議で、幻想的な眺めだったでしょうね。
足は、フワフワと舞うように踊り出しました。
それはまるで、生まれて初めてプレゼントされたパンプスに、喜んでいる少女のようだったそうです。
一回り踊るように歩くと、足は立ち止まりました。
そしてそのまま、音もなく消えていったのです。
見つめる河合さんの目の前で。
あれが、誰の足だったかはわかりません。
けれど、若い少女のものに違いない……と、真壁さんは考えたのですって。
だからこそ、河合さんの美しい足にこだわったのですわ。
うらやましかったのでしょう。
それとも、自分だって、これくらい美しい足だったのに……と思って、悔しかったのかもしれませんわ。
「一か八かの大勝負だったけど」
そういって、後で真壁さんは笑ってらっしゃいました。
それでも、これが愛の力というものなのでしょうねえ。
河合さんが、真壁さんの助けを借りて立ち上がったとき、パンプスがキラリと光りました。
見てみると、パンプスの中に、奇妙な形の石が入っていたのです。
光るような石ではないし、さっきまでは確かに、そんな物はなかったのに……。
でも河合さんにしてみれば、自分へのメッセージに思えたのでしょうね。
大切に、持って帰ることにしたのですわ。
次の日から、病院に足の霊が出ることは、なくなりました。
これで、この話は終わりですわ。
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