晦−つきこもり
>二話目(藤村正美)
>C5

そうですわよね。
私も、そうだと思いますわ。
「真壁さん!」
見上げる河合さんの目は、涙で光っていました。
「さあ、頑張って上がって来るんだ……っ」
真壁さんは、歯を食いしばりながら答えました。

腕の筋肉が盛り上がって、ぶるぶる震えています。
河合さんは、彼にしがみつくようにして、這い上がろうとしました。
真壁さんは、河合さんのベルトをグッと引き上げたんですわ。
やっと、屋上の硬いコンクリートの上に、河合さんの体が戻りました。

真壁さんが、ホッと息をつこうとしたときのことです。
いきなり、強い力で突き飛ばされました。
「うわあっ!」
真壁さんは、あわてて角にしがみついたのです。
何がなんだかわからずに見上げると、河合さんが覗き込んでいました。

彼女の顔が、ニヤリと歪みました。
「馬鹿め、死ね」
そういった声は、彼女のものではありませんでした。
次の瞬間、彼の手を、全体重を載せた彼女の足が踏みにじりました。

「ぎゃああーーーーっ!」
真壁さんは、たまらず落ちてしまいました。
悲鳴を聞きつけた人々が集まってくると、そこには泣き伏した河合さんがいたんです。

「真壁さんが……真壁さんが、いきなり飛び降りてしまったんです……」
身をよじって泣く姿は、みんなの涙を誘いました。
誰一人、彼女を疑うものはいませんでしたわ。
そう、私以外はね。

なぜ私が、真実を知っているのか、教えてあげましょうか?
1.教えてほしい
2.知りたくない