晦−つきこもり
>二話目(藤村正美)
>O2

そんなある日、お見舞いの人がいらっしゃったの。
同じバレエ団の人でした。
同期で、ライバルの上杉さんという女性。
「残念だったわね、河合さん。でも、安心して。私があなたの分まで、頑張ってバレエ団を盛り立てて行くから」

言葉は優しかったけれど、河合さんは見てしまったんです。
上杉さんの目の中にある、喜びと同情の表情を……。
彼女を、猛烈な哀しみが襲いました。
同時に怒りも湧いてきたのです。

公演の主役を取られるのは、本当に悔しい。
でも、その悔しさを現すまいと、心に決めました。
ライバルだった上杉さんに同情されるなんて、耐えられなかったんですわ。
だから強くなろう。

強くなって、同情を跳ね返そう……と思ったのでしょうね。
次の日、彼女の元に意外な知らせが入りました。
上杉さんが亡くなったというのです。
それも河合さんを見舞った帰り道、駅のホームから線路に落ちて……。

ちょうど電車が来たところで、即死だったそうですわ。
遺体を回収したとき、背中に足跡がついているのが発見されました。
誰かに蹴り落とされたんじゃないかと、大騒ぎになったんです。
でも、それにしては奇妙なことがありました。

彼女についていた足跡は、裸足だったんですって。
駅のホームに、裸足で立っている人なんているかしら。
もしいても、目立って仕方ありませんわよね。
でも、目撃者は一人もいなかったんですわ。

不思議な話だと思いませんか。
だから、こんな噂が流れました。
上杉さんを突き落としたのは、河合さんだ……なんて。
けれど、河合さんは身動きもできない状況で、病院にいたんですわ。

上杉さんを突き飛ばすなんてこと、できるわけないじゃありませんか。
葉子ちゃんも、そう思うでしょう?
1.思わない
2.思う