晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>A2

ふうん、葉子ちゃんはよく見るのね。
ねえ、夢って不思議だと思わない?
夢の中だったら、死んでも大丈夫でしょ?
夢では何でもできるような気がするでしょ?

でも、見たい夢ってなかなか見れないじゃない。
それどころか、嫌な夢や怖い夢なんか見たりするし。
葉子ちゃんは、そんなこと考えたことないかしらね。

あのね、実はこれ、私が体験したことなんだけれど。
……そうね、もう、五年くらい前のことよ。
冬に、ちょっと風邪をこじらせてね。

駅の近くにある大きな病院に行った時、植木のあたりで小さなボールを見つけたの。
やわらかいゴムでできた、つるつるのボールよ。
何かの歯形みたいなものがついて、ボロボロだったけどね。
それが草むらの陰に隠れていたから、わからなくて蹴飛ばしてしまったのよね。

私、ボールを草むらに戻したの。
……でね、その夜、こんな夢を見たのよ。
小さな女の子の夢。
小学一年生くらいだったわね。
髪をポニーテールにした子。
まつげが長くて、くりくりの目をして、ちょこまか動いてるの。
なんだかかわいいわね、なんて思ってたら、ひどいのよ。

その子、どろ遊びでもしたような、汚い手をのばしてきてね。
いきなり、私の毛をひっぱったのよ。
1.文句をいう
2.逃げる