晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>L8

そうか、葉子ちゃんでもそうするのか。
自分も、そうしようと思ったんだ。
でもな、風が吹く度に、木がこすれ合う音がしてな。
それが、人の声に聞こえたりするんだ。

気持ち悪いだろ?
気のせいだって事は、わかっていてもな。
あんな経験をした後だ。
怖くて仕方がない。
とりあえず、中には藤澤が寝ている。
それだけでも、心強いだろ?

それで、自分はテントに戻ることにしたんだ。
恐る恐る中に入ったんだけどな。
テントの中は、藤澤の寝息だけが静かに聞こえていた。
自分はな、素早く布団の中に滑り込んで、眠りにつこうと思ったんだ。

するとだ!
また誰かが、テントをたたくんだよ!
バシバシって。
自分は、怖くてな。
藤澤を起こそうとしたんだ。

何かあったら、起こしてくれって、いっていたしな。
「藤澤! 藤澤!」
自分は、藤澤を激しく揺さぶって、起こそうとしたんだ。

でも、藤澤はいっこうに起きないんだよ!
いくら揺すっても、いっこうに起きないんだ。
そうしているうちに、テントをたたく音がだんだんと激しくなっていった!

もう、テントが倒れるんじゃないかと思う程だ!
自分は、もう、いても立ってもいられなくなってな。
テントを飛び出したんだ。

「うわっ!」
テントの外に飛び出した瞬間に、そう叫んでいたよ。
自分は、思わずテントの中に舞い戻った。
外にはな、無数の火の玉がふわふわと飛んでいたんだ!
青白い光を放っている火の玉がな、数え切れないぐらい飛んでいたんだよ!

まるで、自分をあざ笑っているかのように、ゆらり、ゆらりと飛んでいたんだ。
自分は、恐怖で早くなっている呼吸をしずめようと大きく息をしていた。
気がつくと、いつの間にかテントをたたく音は収まっていて、テントの中はしんと静まり返っていた。

葉子ちゃん。
葉子ちゃんは、火の玉を見たことがあるかい?
1.ある
2.ない