晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>M6

そう、そうなんだ。
藤澤の奴も、見たというんだよ。
自分らが、ビールを飲みながら、騒いでいたときにな。
藤澤は、ふと川の方を見たんだそうだ。
その時。

川の上にな、人が三人立っていて、こっちの方をじっと眺めていたんだそうだ。
川の上に立っていたんだから、間違いなく、人間じゃなかったというんだよ。

自分は、どうしてもっと早く教えてくれなかったのかって、聞いたんだ。
するとな、怖がらせちゃいけないからいわなかったって、そういうんだよ。
自分らは、とりあえずテントに戻ることにしたよ。

その話を聞いて、外にいるのが急に怖くなってな。
まあ、テントに戻ったところで、何の解決にもならないんだがな。
テントに戻った自分は、すぐに布団に潜り込んで、さっさと寝ようとしたんだ。

さっさと寝て、明るくなれば、もう怖くないと思ったからな。
藤澤は、何かあったらすぐに起こしてくれといって、布団に入っていった。
もう何事も起こらないことを祈りながら、しっかりと目を閉じたんだ。

しばらくして……。
自分は、雨が降っているような音で目が覚めた。
さっきまで、あんなに天気が良かったのにな。
まるで、台風でもきたかのような、大粒の雨がテントをたたきつけているような音がするんだよ。

その時な、なんだか奇妙な感覚に襲われたんだ!
なんだか、空中に引っ張り上げられているような、そんな感覚だ!

目を開けてみて驚いたよ。
目を開くとな、自分はテントの外にいたんだ!
しかも、自分は、空中に浮いていてな、自分が寝ていたテントを見下ろしていたんだよ!
幽体離脱ってやつか!?
自分は、テントの周りを見て、一瞬心臓が止まりそうなくらいの衝撃を受けた。

あんなに静かに流れていた川が、いつの間にか降りだした雨のせいで、氾濫寸前になっていたんだ!
みんなが危ない!
自分は、急いでテントに行こうとしたんだ。
でも、自分は空中から見下ろすだけで、どうすることもできないんだよ!

だんだんと水かさがまして……。
駄目だ! 流されてしまう!
そう思ってもな、どうすることもできないんだよ。
テントの中では、藤澤たちが寝ている。
流されれば、一巻の終わりだ。

この状況に気がついていないのか!
自分は、なんとか知らせようと、大きな声で叫んでみたんだ。
でも、その声は、たたきつける雨の音で、かき消されてしまう!
どうしたらいいんだ!
とうとう、テントは水の流れの中に入ってしまった!

「あっ!」
そしてとうとう、テントは、流されてしまった!
「藤澤ぁーーーーっ!!」
気がつくと、自分はテントの中にいたんだ。
自分は、寝汗で体中がびっしょりと濡れていた。

「夢か……」
テントが増水によって流される夢……。
隣を見てみると、藤澤は小さく寝息をたてていた。

何であんな夢を見たんだろう。
まだ、夜は明けていないみたいだった。
自分は、もう一眠りしようと思って、再び布団に潜り込もうとしたんだ。
その時だ。
バンバンという音とともに、テントが揺れ始めたんだ!

まるで誰かがテントをたたいているような……。
そんな感じなんだよ!
「な、なんだ!?」
自分は、思わず飛び起きてしまったよ。
テントの壁を見たらな、ぶわぶわと波打っているんだ!

まるで、何十匹もの蛇がのたうち回っているみたいなんだよ。
へこんだところは、手のひらの形をしていてな。
本当に、何十人もの人間がテントをたたいているみたいなんだ!
自分は動転してな。
どうしていいのかわからないんだ。

なんで、自分がこんな目にあわなければならないんだ。
自分が何をしたんだ!
何もしていないじゃないか!!
自分はただガタガタと震えてな。
情けない声を出すのが精一杯で、縮こまって震えていたよ。

しかしこのままでは、いつまでたっても状況は変化しそうにない。
それで、自分はどうしたと思う?
1.藤澤さんを起こした
2.テントを飛び出した