晦−つきこもり
>三話目(山崎哲夫)
>N6

そう思うだろ?
自分もな、注意しようと思ったんだよ。
それで、テントから出たんだ。
するとな、いつの間にか、霧が出てきていてな。
一面真っ白になっていたよ。

よく見ると、その霧の向こうに、人影が見えたんだ。
焚き火をしていたあたりに、三人程立っていた。
「おい、いい加減に寝ないと、明日がつらいぞ」
自分は、そういいながら、近づいていったんだ。

でもな、おかしなことに自分が近づいていっても反応がないんだよ。
普通、人が近づいてきたら、何となく足音とかで気がつくよな。
でも、そいつらは、自分のことにまったく気がつかないみたいなんだよ。

霧が出ていたからな。
それで気がつかないのかと思って、声をかけてみたんだ。
どうしたんだって。
でもな、そいつら、またも自分のことを無視するんだよ。
それでな、自分は一人の奴の肩に手をおいて、もう一度声をかけてみようとしたんだ。

「!!」
自分は、心臓が口から飛び出すかと思ったよ。
自分が手を伸ばした瞬間、そこにいた奴らが消えてしまったんだ!
信じられるかい!
葉子ちゃん!!

自分は、目をそらしたりしなかったんだぞ!?
それなのに、消えたんだよ!
霧に溶けるようにぱっとな。
自分は、はじめは何が起こったのか、まったく理解できなかった。
周りを見回したんだがな。

どこにもいないんだよ。
自分は、急に恐ろしくなってきてな。
だって、普通の人間がぱっと消えたりなんかしないだろ?
自分は、急いでテントに戻ろうと走り出したんだ。

「ぎゃあぁぁぁーーー」
急にな、葉子ちゃん。
自分の肩をつかむ奴がいたんだよ。
いきなり後ろから、がばっとだ。
自分は驚いて、今にも気を失わんばかりだった。
それで、後ろを見てみたんだよ。

そしたら……。
自分の後ろにはな、葉子ちゃん!
男が一人立っていたんだよ、血だらけの男がな!
そこに立っていたのは、自分が知っている奴じゃなかった。
まったく知らない若い男だったんだ。

そこにいたのは、そいつだけじゃない。
そいつの後ろにはな
やはり血だらけの若い男と、若い女一人が立っていたんだ!
自分は、喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げたよ。
そこに立っている人たちが幽霊だってことは、すぐにわかったよ。

体が少し透けていたからだ。
その幽霊達は、自分の目をじっと見たままな、近づいて来るんだよ。
無表情のまま、ゆっくりゆっくりとな。
自分は、怖くなって早く逃げようとしたんだ。

でも、走ることができないんだよ。
気持ちだけが前に進んで、体が思うように進まないんだ。
腰が抜けたのか?
そうかもしれないし、違うかもしれない。
でも、自分の足が自分の物じゃないみたいに、いうことを聞かないんだ。

そこにいた幽霊達は、自分にどんどんと近づいてくる。
もう、自分の目の前だ。
駄目だ! 捕まってしまう!!
……自分は、そのまま気を失ってしまったよ。
気がついたら、自分を藤澤が抱えていた。

あたりは、まだ暗いままで相変わらず霧が出ていた。
あれからあまり時間はたっていないようだ。
自分は、はっとして周りを見回してみたんだ。
でも、あの幽霊達はどこにもいなかったよ。

藤澤の奴な、自分に聞くんだよ。
どうしたのかって。
自分は、今体験したことをそのまま藤澤に話したんだ。
信じてもらえないと思いながらもな。
すると、藤澤の奴いったんだ。

葉子ちゃん。
藤澤の奴、なんていったと思う?
1.やっぱり
2.自分も見た