晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>A5

五百円あれば、四本ジュース飲んで、おつりが来るぜ。
それはわかってる。
でも、やっぱり欲しいんだよ。
俺は五百円出して、そのカブト虫を手に入れた。
こいつが、どうやって幸運を運んでくるのかわかれば、俺だって幸運のカブト虫売りになれるかもしれないしさ。

そしたら、俺も大金持ちじゃん。
ところが、その帰り道にさ。
つまずいた拍子に、カブト虫の入った箱を落としちまった。
ボール紙がひしゃげて、隙間からカブト虫が飛び出した。

「やばいっ!」
俺は、あわてて追いかけたよ。
カブト虫は、近くの雑木林に飛んでいったんだ。
あとから俺も、そこに飛び込んだ。
そうしたら、またつまずいたんだ。
今度は持ちこたえられずに、コケちゃった。

服は汚れるし、カブト虫は見失うし、ついてないよな。
起き上がったとき、自分がつまずいたのが黒い財布だって、わかった。
中を見てみると、札束が詰まってるんだよ!
俺おっかなくなって、警察に届けたんだ。

そしたら持ち主がいてさ。
拾ったお礼にって、俺、小遣いもらっちゃった。
カブト虫は結局見つかんなかったけど、これが幸運ってことかなあ。
またしばらくして、いつもの場所にオヤジが現れた。
知らん顔して通り過ぎようとする俺を、わざわざ呼び止めるんだぜ。

「幸運を呼ぶ人形は、いらないかい?」
人形か……。
それなら、聞いたことがあったな。
俺は何気なく、人形を覗き込んだんだ。
……そこには、オヤジそっくりの顔の人形が並んでた。

大きさは二十センチくらい。
それがまた、よく似てんだよ。
笑っちゃうくらいにさ。
「どうだい、効き目がありそうだろ」
オヤジは嬉しそうにいうんだ。

でも……オヤジそっくりの人形だぜ。
効き目、あると思う?
1.ありそう
2.ないと思う