晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>Z3

いや、自分で悲鳴をあげてたんだってさ。
「ぎゃーっ」
で、スタッフのみんなは大笑いしたそうだ。
監督は怒っちゃって、
「おまえは、俺の作品を馬鹿にするのか!」
といって出ていったんだ。

スタッフはその日はそのまま帰った。
しかし、次の日に何をいわれるかと思うと気が重かったそうだ。
その監督はいいものは撮るんだけど、何しでかすか分からない人だったんだよ。
しかし、翌日、会社に行ったらその監督は来てなかった。

ただ夜から昨日の続きをやるという連絡が入っていたんだ。
それで、できるだけ、悲鳴を集めて、夜に備えたらしい。
夜になって、北田君はスタッフと待機していると、しばらくしてから青白い顔をして、監督が現れたんだよ。
テープを小脇に抱えて。

「これで行く」
そして監督は、そういって、北田君にそのテープを差し出した。
監督の異常な雰囲気に、みんな緊張してさ。
少し間をおいて、作業に入ったんだ。
そのテープを再生した。

数秒間、だれ一人、動けなくなったんだ。
余りにも凄い悲鳴だったんで………。
監督はニヤッと笑うと、薄気味悪い声で、
「よ〜し」
と言ったんだ。

そしてまた、数秒間沈黙が続いちゃって、やっと仕事が終わったと言う気持ちが込み上げてきたのは、それからしばらくしてからだったらしい。
でも、それが悪夢の始まりだったんだ………。
ほんとうの悪夢の………………。

みんなが帰った後、最後に僕はスタジオを後にする。
あんなテープを聞いた後だし、シーンと静まりかえった建物は、無気味に感じた。
そして僕が階段に向かって歩き出そうとしたとき、男の悲鳴が聞こえた。

廊下はシーンと静まり返っている。
(さっきの悲鳴は何だったんだろう………)
また、悲鳴が轟いた。
(どうする………)
僕は悩んだ。

誰かが助けを求めているなら、行かなければと思う気持ちと、逃げたいという気持ちが交錯したんだ。
(→廊下に出る)
(→廊下で体力が尽きた場合)