晦−つきこもり
>四話目(山崎哲夫)
>A9

声をかけるっていうんだな。
そうか!
葉子ちゃんは、なかなか友好的なんだな。
だがな、自分は……。
ほら……、内気でシャイな性格だろ?
だから、こういう時にどうやって声をかけるべきか、さっぱりわからなくてな……。

そのまま、じっと黙ってたんだ。
するとな……。
そいつがむっくりと顔を上げたんだ。
「ふあーぁ……」
大きなあくびだったよ。
何のことはない、ただ疲れて眠ってただけだったのさ。

「おや? あなたも登山者ですね?」
そいつは、自分を見てにこやかに笑いながらそういったよ。
雨宿りの仲間ができて嬉しかった……。
……なんてことも、いってたような気がするな。

やっぱり、彼も大自然に魅せられた冒険家だったのさ。
それからは……。
焚き火を囲んで、二人で熱く語り合ったんだ。
いやぁ、不思議なもんだよな。
お互い初めて会った見知らぬ者同士だが、もう何十年もつきあいのある古い友人のような気さえしてたよ。

日が暮れても、雨はいっこうにやむ気配がなかった。
それで、自分らはその小屋で夜を明かすことになったんだ。
驚いたことに、彼のザックからは豪華なご馳走が、次から次へと出てくるんだ。
しかも彼は、自分一人ではこんなに食えないからといって、自分にすすめるんだ。

温かいスープに、温かい御飯……、それに、たっぷりクリームの入ったココア……。
いちおう、自分も非常食は持っていたがな。
どれも、保存を考えて乾燥させられた物ばかりだったんだ。
はっきりいって、ご馳走なんていえない代物さ。
なぁ、葉子ちゃん。

葉子ちゃんなら、こんなご馳走をすすめられて我慢できるかい?
1.我慢できる
2.我慢できない