晦−つきこもり
>四話目(鈴木由香里)
>D4

抗議の手紙だって?
だったら、私だって困ったりはしなかったよ。
抗議の手紙なんて、てきとーに返事しとけばいいんだから。
私が受け取ったのは、熱烈なラブレターだったの。

『由香里お姉様って、呼ばせて下さい……』
そういう書き出しだったと思う。
手紙の差出人は、葉子と同じぐらいの女の子だったよ。
ショップで私のことを見かけて、一目惚れしたんだってさ。

私ってさぁ、どういうわけか昔っから女の子にもてるんだよね。
……ま、そんなことどうでもいいんだけど。
どうやらその子は、ショップで買った呪詛人形に、私の名前をつけて可愛がってるみたいだったよ。

着せ替え人形のつもりだったんじゃん?
でも人形遊びを続けるうちに、だんだん自分の空想の世界と現実の世界との境がわからなくなっていったみたいなんだ。
『いつも由香里お姉様の夢を見ています……。いつもお姉様を見つめています……』

そんな内容の手紙が、束になって届くんだよ。
しかも毎日……!
私が、アイドルみたいな有名人だっていうんならわかるけどさぁ。
……まぁ、それでもね。
好きだって、慕ってくれてるんだもん。
そう嫌な気はしないじゃん。

それに、こういうのって一時の気の迷いが多いから……。
すぐに熱が冷めるだろうって、彼女のことはほっといたのさ。
するとさぁ……。
いつ頃からだったか、私の周りで奇妙な事故っていうか……イタズラが増えたんだ。
マザー・アンジュの靴に画鋲が入ってたり……。

ショップの常連客の女の子の教科書が盗まれたり……。
……なんていうか。
子供のイタズラみたいだと思わない?
ただ、そのイタズラが徐々にエスカレートしてってさぁ。
ついに怪我人が出ちゃったんだ。

やっぱり常連客の女の子だったんだけど、ショップからの帰り道で、階段の上から突き落とされたんだって。
驚いたのはその後だよ。
翌日届いた例の手紙に、しっかりとその事故のことが書かれてたの。
しかも、

『私が突き落としたんです。だって、私の由香里お姉様と五分三十二秒もお喋りしてたんですもの……』
って、しっかりと書いてあったよ。
さすがに私も怖くなってさぁ……。
彼女に、最初で最後の手紙を書いたんだ。

『あなたの気持ちは受け取れません。
私には、心に決めた人がいるんです』
……って書いてね。
するとさぁ、あんなにしつこかった手紙が、プッツリと跡絶えたんだ。

私のこと、あきらめてくれたのかなぁ……?
1.あきらめたと思う
2.あきらめてないと思う