晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>H4

そう、別の場所で撮影しようと言い張ったんだ。
まあみんなも横山さんが死んだあの場所に潜るのは、いい気がしなかったし、渡辺のいう通りにした。
それで選択されたポイントは、島を挟んで反対側の外洋だ。
そして俺達は船に乗り込み、ポイントに向かう。

その日は抜けるような青い空で、雲一つ無かった。
二時間程船を走らせると、撮影を行う場所に着いたんだ。
スタッフは素早く準備を終え、海に入り始める。
このときはカメラマン二人と、それぞれにサポートを二人ずつつけたんだ。

「泰明さん、俺は………」
今回の撮影に組み込まれなかった渡辺が、俺に自分の役割を聞いた。
「今日は船の上にいるのが、お前の仕事だ」
渡辺を休ませようと、思ったんだ。
しかし彼の熱意に押され、俺は許可した。

「じゃあ、A班のサポートとして行け」
しかし彼は、喜ぶと思った俺の予想に反して、少し浮かない顔をする。
俺は気になった。
そして俺は渡辺に声を掛けようとしたが、そのときはもう浮かない表情は消えていたんだ。

「泰明さん、行って来ます」
そういうと、手早く準備を終え、海に入った。
A班はもう潜行していて、海面にはいない。
渡辺は、後を追った。
しかし無事撮影を終え、スタッフが戻ると、彼の姿はそこには無かった。

A班カメラマンの鈴木さんに聞いても、彼は来なかったということだ。
再びスタッフと、海上保安庁による捜索が始まった。
しかし彼は見つからなかったんだ。
俺達はとにかく撮影を続けることにした。

そして最終日、あの横山さんが死んだポイントで、撮影を行うことになったんだ。
俺達は船で出発した。
「今回の取材で、犠牲者が二人もでてしまったな………」
俺は誰とも無しに、そう呟いたんだ。
スタッフも同様な気持ちだったらしく、みんな沈黙している。

そして二時間程して、あの横山さんが行方不明になったポイントに着いた。
空は晴れ渡り、海は穏やかだ。
スタッフは手早く準備を整えると、撮影準備に入った。
「じゃあ、真田さん、行って来るから………」
そういって、カメラマンの鈴木さんが潜ったんだ。

「泰明さん、今日で最後ですから、一緒に潜りませんか」
スタッフの一人が、寂しそうに笑いながらいった。
みんなは最後の撮影ということで、感傷的になっているようだ。
葉子ちゃん、知ってるかな。
俺もライセンスを持っているんだよ、ははっ。

ところで葉子ちゃんだったら、こんなとき潜るかい。
1.人が死んだ海は怖いからやめる
2.死んだスタッフに別れを告げたい