晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>B6

ちょっと待った、葉子ちゃん。
すまんすまん、話が横道にそれたからな。

要するに、自分に冒険の浪漫を教えてくれたのは、ショーンだったんだよ。
小さい頃から、夢や冒険にあふれた本を読むのが好きだったらしい。
将来は冒険家になるんだと、本気で思っていたようだった。

「冒険家? そんな職業があるのか?」
自分は、わくわくしながら聞いたよ。
奴は、ニッコリ笑ってこう答えた。

「わからない。でも、他に冒険家がいるかどうかは問題じゃないんだ。問題は、世界にどのくらい、謎に満ちた場所があるかだよ」
……ショーンに触発されて、自分もいろんな本を読んだ。
そして、いつか二人で財宝を掘り出そうという夢を持ったんだ。

そんなある日だ。
ショーンが、学園内に財宝が眠っているという噂を聞きつけてきたんだ。
学園内にある礼拝堂で、誰かがそう話していたのを聞いたらしい。
日曜礼拝の時だといってたな。
目をつぶって祈っている時に、声がしたということだった。

それは、まったくのデマかもしれなかった。
でも自分達は、探ってみることにしたんだよ。
まずは、次の日曜礼拝だ。
噂をしていた奴が、また来るかもと思ったんだ。
自分は、礼拝をよくサボっていたんだがな。

まじめになったふりをして、出ることにしたんだよ。
日曜日、神父の祈りを聞きながら、礼拝堂の様子をうかがった。
それらしい奴はいなかったよ。
やがて、目をつぶる祈りの時間になった。
すると、どこからか声がするじゃないか。

「財宝は、この礼拝堂にあるよ……」
自分は、薄目を開けてみた。
左隣にいたショーンも、目を開けていたよ。
声は、右隣の方からしていたようだった。

「財宝は、この礼拝堂にあるよ……」
声と同時に、冷たい息がかかってきた。
自分の右隣には、いつのまにか、同じ年くらいの男の子がいたんだ。
制服は着ていなかったから、外部の奴だと思ったよ。

学園の敷地内にある礼拝堂に、許可なく外部の者が入っていいんだろうか。
自分は、ショーンに聞いてみたんだ。
「ショーン、この礼拝堂は、生徒でなくても入っていいのか?」
「いや、それはできないはずだけど」

「じゃあ、隣にいるあいつ、やばいよな? 教えてあげた方がいいのかな」
ショーンは、しばらく目をまるくしていた。
「なあ、ショーン」
いつまでたっても、何もいわない。

「ショーン、返事をしてくれよ」
「ああ、ごめん。でも、どこに外部の子がいるって?」
自分はヒヤリとして、もう一度男の子がいた隣を見てみた。
男の子は、確かにいたよ。
だが、ショーンには見えないようだった。

「ショーン、ちょっと出ないか」
「駄目だよ、お祈りの途中で出たら」
ショーンは、自分を制した。
「頼む、ショーン、訳は後で話すから」
「テツオ、わがままいうなよ」
隣に、お化けか何かがいるのかもしれない。

だが、うまく説明できなかった。
そうこうしているうちに、ショーンは再び目をつぶって祈り始めたんだ。
霊感のれの字もない奴だったな。
顔はきれいだったんだがなあ。
自分の方が繊細だったわけだ。

がはははは……。
1.つっこみをいれる
2.ここはガマンする