晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>J7

ガマンよ。
人間、ガマンが大事なんだわ。
私は、拳を握りしめて、つっこむのをガマンした。
そんな人の苦労も知らないで、哲夫おじさんは楽しそうに語り続けた。

……自分達は、日曜礼拝に出た日の夜、また礼拝堂を訪ねた。
鍵はかかっていなかったよ。
不思議なもんでな、礼拝堂のようなところは、夜中でも鍵がかかってなくて、人が入れるようになってたりするんだ。
日本でもそういうところがあるぞ。

いつでも誰かが祈れるようにってことなのかな。
自分達は、それを逆手にとって、財宝を探そうとしたんだから。
バチあたりだよなあ。
礼拝堂は、静まりかえっていたよ。

財宝の手掛かりを探すために、生徒達が座る椅子や机、神父が使う中央の机……くまなく調べた。
「おい、ショーン、こんなとこに水が溜まってるぞ。捨てようか」
「あっ、それは聖水を溜めておくところだよ、そのままにしておかなきゃ」

「仏様にあげるお茶みたいなもんか?」
「テツオ、何の話をしているんだ?」
自分達は、ああじゃないこうじゃないといいながら、いろいろ調べたんだ。
そうこうしているうちに、後ろから声をかけられてな。

慌てて振り向いたよ。
「あなた達、何をしているのですか?」
シスターだった。
シスター・エマといったっけな。
よく、木陰で静かに本を読んでいるようなシスターだった。
その姿が、気高くていいと、みんながよくいっていたよ。

「いや、あの、その」
自分はうまい言葉がみつからず、もごもごいうだけだった。
「僕達、神に懺悔をしていたんです」
突然ショーンがそんなことをいいだした。

「懺悔ですか?」
「ええ」
奴は、真顔で嘘をつけたんだよなあ。
自分にはできない芸当だったよ。

「何か悩んでいるのですね。いいでしょう。よければ話を聞きますよ」
シスター・エマの親切に、ショーンは笑って答えた。
「ありがとうございます。でも、今日はまだその勇気がありません。
別の機会にお願いします」

「……そうですか」
シスター・エマは、納得してくれたようだった。
「今日はもうお帰りなさい、さあ、一緒に行きましょう」
その時、シスターについて行こうとした自分の肩を、誰かがたたいたんだ。
「ショーン?」
後ろから返事はなかった。

「テツオ、何してるんだよ、もう帰るぞ」
前方に、ショーンとシスターが立っていた。
そして、自分の後ろには、青白く光る男の子が立っていたんだ。
昼間の礼拝堂で見た男の子だった。

口をぱくぱくさせて、行くなといっているようだったな。
「テツオ、行くよ」
ショーンがやって来て、自分の手を引いた。
反対側の腕を、男の子の霊が掴む。
自分は動けなくなっていた。
金縛り状態だ。

「どうしたのですか?」
シスター・エマが近寄ってきた。
その途端、男の子の霊は、脅えたように消えたよ。
金縛りは解けた。
その後、自分達はすぐ寮に戻ったんだ。

「テツオ、今日は僕の部屋に来ないか? これからの打ち合わせをしようよ」
さっきもいったが、ショーンの部屋は一人部屋だったからな。
誰にも聞かれずに、いろんな相談ができる。
断る理由はなかったよ。

自分はその日、ショーンの部屋に泊まったんだ。
1.楽しかったでしょ、おじさん
2.後悔したろうなあ、ショーンは